労災の休業補償給付と自賠責のどちらを選ぶべきか - 同時受給は可能?

労災の休業補償給付と自賠責のどちらを選ぶべきか - 同時受給は可能?

交通事故に遭って仕事を休んだ場合に、本来は得られるべきはずの給与や収入を補償する手段はあります。

基本的には、自賠責保険の休業損害によって補償されますが、業務中・通勤中に事故に遭った場合は労災の休業(補償)給付を受けることができます。労災の休業補償給付は「最長1年6カ月」受給が可能であるため、自賠責よりも手厚い補償が受けられるでしょう。

原則として、自賠責と労災の両方から補償を受けることはできませんが、ある条件を満たせば同時受給が可能です。

この記事では、労災と自賠責の休業補償について解説していきます。

それぞれのメリット・デメリットとあわせて、併用する際の注意点もわかりやすく説明していきます。

労災が適用される交通事故について

労災保険が適用される交通事故としては、業務中・通勤中の事故に限られます。

具体的には、

  • 営業車で移動中に事故に巻き込まれた(業務上の災害)
  • 会社に出社する途中で車に追突された(通勤中の災害)

といったケースです。

休業期間の補償について、業務中と通勤中の事故では、それぞれ呼び方が異なっています。

  • 業務中の事故の場合:休業補償給付
  • 通勤中の事故の場合:休業給付

呼び方は異なるものの、補償の内容は同じです。

詳しくは、下記の記事をご覧ください。

労災と自賠責保険の休業期間の補償はどう違う?

交通事故によって仕事を休む場合、その休んだ分の給料は補償されます。休業期間には、「入院(治療)・リハビリ・自宅療養」などが含まれ、医師の診断が必要になります。

基本的には、加害者の自賠責保険で補償されることになりますが、業務中・通勤中の事故なら労災で補償を受けることも可能です。では、この2つの補償はどのように異なるのでしょうか。

労災の休業(補償)給付について

労災の休業(補償)給付は、給料全額が補償されるわけではありません。休業(補償)給付は、給付基礎日額(直前3か月の賃金÷3か月の暦日数)の「60%」が補償されます。

休業(補償)給付=(給付基礎日額の60%)×休業日数
あわせて、「休業特別支給金」が支給され、給付基礎日額の「20%」が補償されることになります。

休業特別支給金=(給付基礎日額の20%)×休業日数
つまり、労災が適用される事故で休業した場合、「月給の約80%」が補償されることになるのです。

また、この休業(補償)給付は最長で1年6か月受けることができるため、治療やリハビリが長引いても心配いりません。

自賠責保険の休業損害について

自賠責保険の休業損害は、原則として以下のような計算式で求められます。

5,700円/日(~19,000円/日)×休業日数
自賠責保険での休業損害は、原則「1日5,700円」です。

休業日数は、労災と同じく、入院・治療・リハビリなど、医師の診断書によって決められます。

1日あたりの基礎収入が「5,700円を超える」と給与明細などで証明できれば、その人に応じた金額(上限1日19,000円)を請求できます。

そのため、自賠責では給料の全額が補償される可能性が高くなります。ただし、自賠責保険では補償の上限が「120万円」と決まっています。

これには、治療費や慰謝料なども含まれるため、治療費がかかり過ぎた場合などは、休業損害が満額受け取れない可能性もあることに注意してください。

それぞれのメリット・デメリット

休業期間の補償に関して、労災と自賠責の併用はできません。なぜなら、「補償部分が重複」しているからです。両方から補償を受けることは、「2重取り」になってしまうため、どちらかを選ぶ必要があります。

それぞれのメリット・デメリットを以下の表にまとめました。それぞれの特徴をよく理解してから、どちらを選ぶべきか決めてください。

名称 メリット デメリット
自賠責保険 休業損害 1日あたりの給料が19,000円まで補償されるため、休んだ分の給料全額が補償される可能性が高い。 治療費や慰謝料等も含め、最高120万円までしか補償されない。治療が長引く場合、保険金が打ち切られるケースが多くなる。
労災保険 休業(補償)給付 休業期間が最長で1年6か月まで補償される。治療やリハビリが長引く場合は有効。 休業特別給付金と合わせても、給料の80%しか補償されない。
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労災と自賠責どちらからも補償を受ける方法はない?

原則として、労災と自賠責の併用はできませんが、実は自賠責から休業損害補償を受けた上で「労災からの補償を受ける方法」があるのです。

労災の「休業特別支給金」は自賠責と併用できる

補償の扱い上、自賠責と労災で重複するのは「休業損害」と「休業(補償)給付」の部分です。つまり、労災の「休業特別支給金」は重複と見なされず、自賠責保険の休業損害と合わせて受け取ることができるのです。

この併用に関しては、保険会社から説明されることはありません。労災を申請する場合、まずは会社に相談するようにしてください。

担当者が必要な書類を準備して、手続きを進めてくれます。もし会社が労災保険の申請に応じてくれない場合でも、自分で必要書類を記入し申請することは可能です。

これとあわせて、自動車安全運転センターの発行する「交通事故証明書」や「医師の診断書」等が必要になります。

労災が適用されるかどうかを判断するのは、あくまで労働基準監督署です。

労災と自賠責の両方を使う場合の注意点

休業期間の補償として、労災と自賠責の両方を使う場合は、以下のことに注意する必要があります。注意を怠ったばかりに、「受けるべき補償」が受けられないという事態になりかねません。

有給休暇の扱いについて

入院や通院で会社を休む際、「有給休暇」を使う人は大勢います。この「有給休暇」を使った場合、「休業日数」はどのように扱われるのでしょうか。

自賠責保険の休業損害では、有給休暇を取っていたとしても「休業日数」に含まれます。その一方、労災の休業(補償)給付では、有給休暇を取った場合、その有給分は休業日数としてカウントされません。休業特別支援金も同様です。

有給休暇を使えば、その分は労災からの補償は受けられないことになります。

休業が長引くケースは特に注意

労災と自賠責どちらからも補償を受ける場合、まずは自賠責保険の休業損害を申請し、その後労災の「休業特別支給金」を申請することになります。

ただし、治療やリハビリが長引き、休業が長くなる場合は要注意です。

自賠責保険の補償は120万円まで

自賠責保険の補償上限は「120万円」と定められています。

上記で説明した通り、この120万円には休業損害はもちろん、治療費、慰謝料などが含まれます。

自賠責保険が適用の場合、治療も自由診療となるため、治療費が高額になります。

治療が長引けば、治療費だけで120万円に達するというケースも珍しくありません。

休業損害は打ち切られる可能性が高い

120万円を超えた分に関しては、保険会社の保険によって補償されます。しかし、保険会社は保険金の支払いを抑えるため、治療固定を早めようとしてきます。

たとえ、まだ症状が残っていると訴えても、「治療期間の目安は過ぎた」といった理由で、治療費や休業損害を打ち切ってくるでしょう。

治療費や休業損害が打ち切られると、その後の治療費は自己負担となるだけでなく、仕事を休んでいる間の給料も補償されません。

このように、自賠責だけでは「適正な補償が受けられない」というケースも多くなっています。労災と自賠責を併用しようとしても、手続きが複雑になるだけでなく、必ず認められるとは限りません。

仕事を休むような事故被害はすぐに弁護士に相談

労災を選ぶべきか、自賠責を選ぶべきかは被害者の状況によって大きく異なります。併用することは可能ではありますが、手続きが複雑になり、素人1人でおこなうことは難しくなるでしょう。

そのため、事故後なるべく早い段階で交通事故に強い弁護士に相談することが大切です。弁護士なら「事故後の対応」について、的確なアドバイスが可能です。

弁護士に相談・依頼するメリット

早い段階で弁護士に相談・依頼するメリットは、適切なアドバイスを受けられるだけではありません。労災・自賠責、どちらが被害者にとってメリットがあるのか判断し、それに関する手続きをすべて代行してくれます。

また、弁護士が介入することで、弁護士(裁判)基準で損害賠償を請求することができます。弁護士(裁判)基準を採用できれば、損害賠償額が2~3倍に増額することも可能です。

まずは交通事故に強い弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。きっと良い解決方法が見つかります。

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