- むちうちの慰謝料の相場がわかる
- むちうちの慰謝料の計算方法がわかる
- 慰謝料を増額するためのポイントがわかる
- 慰謝料を減額されないための注意点がわかる
交通事故による負傷で最も多いといわれているのが「むちうち(むち打ち)」です。
むちうちは目立った外傷を伴わないため軽傷として扱われがちですが、さまざまな辛い症状のために仕事や家事に支障をきたすことも少なくありません。そのため、少しでも多くの慰謝料を受け取りたいところでしょう。
むちうちの慰謝料には相場がありますが、治療中の対応や慰謝料請求の仕方によっては増額または減額されることもあります。
この記事では、交通事故でむちうちになってしまった場合の慰謝料の相場や増額・減額されるケースをご紹介し、適切な慰謝料を受け取るためのポイントを解説します。
むちうちは外傷がないため被害者は慰謝料請求を十分得られないことが多い症状です。むち打ちと慰謝料基準を理解して適正な請求を行ってください!
交通事故によるむちうちで請求できる慰謝料の種類
慰謝料とは、他人の不法行為によって被害者が受けた精神的苦痛に対して支払われる損害賠償金のことです。
むちうちのケースも、加害者が過失で引き起こした交通事故によって被害者が苦しむことになるので、慰謝料を請求できます。
交通事故によるむちうちの被害者が請求できる慰謝料には、大きく分けて次の2種類があります。
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
それぞれ、どのような場合に請求できるのかをご説明します。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は、交通事故でケガをして1日でも医療機関で治療を受けた場合に請求できます。
ケガによる痛み・苦しみや、治療のために入通院することを余儀なくされることによる精神的苦痛に対して支払われるのが、入通院慰謝料です。
入通院期間が長ければ長いほど精神的苦痛が大きいと考えられるので、入通院期間の長短に応じて慰謝料額が算出されます。
そのため、たとえ交通事故でケガをしていても、一度も医療機関で治療を受けなかった場合には入通院慰謝料を請求することはできません。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、ケガが完治せずに後遺症が残ったケースのうち、「後遺障害等級」の認定を受けた場合に請求できます。
一生治らない後遺症が残り、そのために将来の仕事や家事などに支障をきたすことによる精神的苦痛に対して支払われるのが、後遺障害慰謝料です。
認定される後遺障害の等級が重ければ重いほど精神的苦痛が大きいと考えられるので、慰謝料額は認定された後遺障害等級に応じて定められています。
後遺障害等級に認定されない程度の後遺症の場合は、慰謝料を賠償すべきほどの精神的苦痛ではないと考えられています。
そのため、後遺障害慰謝料を請求するためには、適切に後遺障害等級の認定を受けることが極めて重要となります。
むちうちの慰謝料の計算方法
次に、むちうちでどれくらいの慰謝料をもらえるのか、その計算方法を解説します。
交通事故によるケガに対する慰謝料を計算する際には、次の3種類の算定基準のどれかを用いることになります。
- 自賠責保険基準
- 任意保険基準
- 弁護士基準(裁判所基準)
入通院慰謝料と後遺障害慰謝料のそれぞれについて、3種類の算定基準それぞれによる計算方法をみていきましょう。
入通院慰謝料の計算方法
まずは、入通院慰謝料の計算方法をご説明します。
自賠責保険基準
自賠責保険基準は、人身事故の被害者に対して最低限の補償を行う自賠責保険で慰謝料が支払われる際に用いられる基準です。3つの基準の中では最も慰謝料が低額となります。
入通院慰謝料については、1日あたりの金額を4,300円(2020年3月31日以前に発生した交通事故については1日あたり4,200円)として、次のどちらか少ない方と掛け合わせます。
- 総治療期間(入院期間+通院期間)
- 通院日数×2
任意保険基準
任意保険基準は、任意保険会社との示談によって慰謝料が支払われる際に用いられる基準です。慰謝料額は自賠責保険基準よりは高く、弁護士基準よりは低くなります。具体的な基準は各保険会社が独自に定めており、非公開のため不明です。
もっとも、ほとんどの保険会社は、おおむね次の速算表にしたがって慰謝料を算出していると思われます。実際の入院期間と通院期間が交わった欄に記載された金額が入通院慰謝料の額となります。
あくまでも参考値に過ぎませんが、一応の目安として参考になさってください。
(単位:万円)
通院 | 入院 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
25.2 | 50.4 | 75.6 | 95.8 | 113.4 | 128.5 | ||
1月 | 12.6 | 37.8 | 63 | 85.7 | 104.6 | 121 | 134.8 |
2月 | 25.2 | 50.4 | 73.1 | 94.5 | 112.2 | 127.3 | 141.1 |
3月 | 37.8 | 60.5 | 81.9 | 102.1 | 118.5 | 133.6 | 146.1 |
4月 | 47.9 | 69.3 | 89.5 | 108.4 | 124.8 | 138.6 | 151.1 |
5月 | 56.7 | 76.9 | 95.8 | 114.7 | 129.8 | 143.6 | 154.9 |
6月 | 64.3 | 83.2 | 102.1 | 119.7 | 134.8 | 147.4 | 157.4 |
7月 | 70.6 | 89.5 | 107.1 | 124.7 | 138.6 | 149.9 | 160 |
8月 | 76.9 | 94.5 | 112.1 | 128.5 | 141.1 | 152.5 | 162.5 |
9月 | 81.9 | 99.5 | 115.9 | 131 | 143.7 | 155 | 165 |
10月 | 86.9 | 103.3 | 118.4 | 133.6 | 146.2 | 157.5 | 167.5 |
11月 | 90.7 | 105.8 | 121 | 136.1 | 148.7 | 160 | 170 |
12月 | 93.2 | 108.4 | 123.5 | 138.6 | 151.2 | 162.5 | 172.5 |
弁護士基準
弁護士基準は、被害者から損害賠償請求の依頼を受けた弁護士が加害者側へ慰謝料を請求する際に用いる基準です。裁判所も交通事故の損害賠償訴訟で同じ基準を用いるので、「裁判所基準」とも呼ばれます。3つの基準の中で慰謝料額が最も高額となります。
弁護士基準でも速算表を使って慰謝料額を算定しますが、任意保険基準の速算表よりも慰謝料額が高く設定されています。
弁護士基準の速算表には、「むちうちで他覚症状がない場合」と「その他の場合」の2種類があります。
【むちうちで他覚症状がない場合】
この速算表を用いる場合、通院期間については実際の通院期間を上限として、実通院日数の3倍程度を目安とします。
(単位:万円)
通院 | 入院 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
35 | 66 | 92 | 116 | 135 | 152 | ||
1月 | 19 | 52 | 83 | 106 | 128 | 145 | 160 |
2月 | 36 | 69 | 97 | 118 | 138 | 153 | 166 |
3月 | 53 | 83 | 109 | 128 | 146 | 159 | 172 |
4月 | 67 | 95 | 119 | 136 | 152 | 165 | 176 |
5月 | 79 | 105 | 127 | 142 | 158 | 169 | 180 |
6月 | 89 | 113 | 133 | 148 | 162 | 173 | 182 |
7月 | 97 | 119 | 139 | 152 | 166 | 175 | 183 |
8月 | 103 | 125 | 143 | 156 | 168 | 176 | 184 |
9月 | 109 | 129 | 147 | 158 | 169 | 177 | 185 |
10月 | 113 | 133 | 149 | 159 | 170 | 178 | 186 |
11月 | 117 | 135 | 150 | 160 | 171 | 179 | 187 |
12月 | 119 | 136 | 151 | 161 | 172 | 180 | 188 |
【その他の場合】
(単位:万円)
通院 | 入院 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
53 | 101 | 145 | 184 | 217 | 244 | ||
1月 | 28 | 77 | 122 | 162 | 199 | 228 | 252 |
2月 | 52 | 98 | 139 | 177 | 210 | 236 | 260 |
3月 | 73 | 115 | 154 | 188 | 218 | 244 | 267 |
4月 | 90 | 130 | 165 | 196 | 226 | 251 | 273 |
5月 | 105 | 141 | 173 | 204 | 233 | 257 | 278 |
6月 | 116 | 149 | 181 | 211 | 239 | 262 | 282 |
7月 | 124 | 157 | 188 | 217 | 244 | 266 | 286 |
8月 | 132 | 164 | 194 | 222 | 248 | 270 | 290 |
9月 | 139 | 170 | 199 | 226 | 252 | 274 | 292 |
10月 | 145 | 175 | 203 | 230 | 256 | 276 | 294 |
11月 | 150 | 179 | 207 | 234 | 258 | 278 | 296 |
12月 | 154 | 183 | 211 | 236 | 260 | 280 | 298 |
後遺障害慰謝料の計算方法
後遺障害慰謝料は、認定された後遺障害等級に応じて金額が定められています。やはり、3つの算定基準ごとに金額が異なります。
むちうちで認定される可能性がある後遺障害等級は12級または14級に限られます。それぞれの慰謝料額については、次の一覧表を参考になさってください。
なお、任意保険会社は、後遺障害慰謝料については自賠責保険基準をほぼ流用するか、それに若干の金額を加算しているに過ぎません。この一覧表では一般的な金額をきさいしていますが、あくまでも一応の目安とお考えください。
等級 | 自賠責保険基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|---|
12級 | 94万円 (2020年3月31日以前の事故は93万円) | 100万円 | 290万円 |
14級 | 32万円 | 40万円 | 110万円 |
自賠責基準と弁護士基準の慰謝料を比較するとこんなに金額差があるんです。どちらが得なのかは一目瞭然ですよね!
交通事故によるむちうちの慰謝料の相場
むちうちの慰謝料の計算方法に3つの算定基準があることを解説しましたが、「それでは、どの基準で計算した金額が相場なのか」という疑問が出てくることでしょう。
この点、交通事故でケガをした被害者のうち、圧倒的多数の人は任意保険会社と示談をして慰謝料を受け取っています。その際には当然、任意保険基準で慰謝料が計算されています。
したがって、「平均的」という意味では、任意保険基準で計算した慰謝料額が相場ということもできます。
しかし、正当な法的根拠に基づいた算定基準は弁護士基準のみです。弁護士基準は、過去の裁判例を分析して作成された基準だからです。それに対して、自賠責保険基準と任意保険基準は、保険会社の利益を確保するために不当に慰謝料額が切り下げられた基準であるといえます。
そのため、弁護士基準で計算した金額が最も「適正」な慰謝料額ということになります。
それでは、実際に受け取れる慰謝料額が算定基準によってどれくらい異なるのか、いくつかの例で計算してみましょう。
通院3ヶ月で治癒したケース
2020年4月1日以降に発生した交通事故でむちうちとなり、3日に1回の頻度で通院したと仮定して慰謝料額を計算します。
算定基準 | 自賠責保険基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|---|
入通院慰謝料 | 25万8,000円 | 37万8,000円 | 53万円 |
むちうちが3ヶ月で治癒するのは比較的軽傷のケースなので、弁護士基準では【むちうちで他覚症状がない場合】の速算表で計算しています。それでも他2つの算定基準よりは高額の慰謝料が認められます。
通院6ヶ月で後遺障害等級14級に認定されたケース
同様に、2020年4月1日以降に発生した交通事故でむちうちとなり、3日に1回の頻度で通院したと仮定して慰謝料額を計算します。
算定基準 | 自賠責保険基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|---|
入通院慰謝料 | 51万6,000円 | 64万3,000円 | 116万円 |
後遺障害慰謝料 | 32万円 | 40万円 | 110万円 |
合計 | 83万6,000円 | 104万3,000円 | 226万円 |
むちうちで後遺障害等級が認定されるのは比較的重傷のケースなので、弁護士基準では【その他の場合】の速算表で計算しています。弁護士基準と他2つの算定基準では大きな違いが出てきます。
通院9ヶ月で後遺障害等級12級に認定されたケース
同様に、2020年4月1日以降に発生した交通事故でむちうちとなり、3日に1回の頻度で通院したと仮定して慰謝料額を計算します。
算定基準 | 自賠責保険基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|---|
入通院慰謝料 | 77万4,000円 | 81万9,000円 | 139万円 |
後遺障害慰謝料 | 94万円 | 100万円 | 290万円 |
合計 | 171万4,000円 | 181万9,000円 | 429万円 |
弁護士基準では、やはり【その他の場合】の速算表で計算しています。重傷になればなるほど、弁護士基準と他2つの算定基準とで開きが大きくなることがお分かりいただけるでしょう。
むちうちの慰謝料を増額するためのポイント
交通事故でむちうちになったときに、少しでも多くの慰謝料を獲得するためには、次の2点がポイントとなります。
後遺障害等級認定を受ける
後遺障害慰謝料は金額が大きいので、後遺障害が残ったら適切な後遺障害等級の認定を受けることが非常に大切です。
この点、CTやMRIの画像で頚骨などの異常が証明できる場合は、障害が明らかなので後遺障害等級12級に認定されやすくなります。
しかし、むちうちでは何ら器質的な異常がないにもかかわらず神経症状が残るケースが多々あります。その場合には、交通事故に遭ったときから症状固定に至るまで「一貫した症状」があることを証明できるかどうかがポイントとなります。
医師が記録したカルテで証明できる場合もありますが、カルテの記載が十分でない場合には、自分で症状の経過などをまとめた「陳述書」を作成するなどして、立証の工夫をする必要があります。
弁護士基準で請求する
弁護士基準による慰謝料請求が認められれば、それだけで慰謝料の大幅な増額が期待できます。
しかし、被害者本人が任意保険会社と交渉しても、弁護士基準での次段には応じてもらえません。任意保険会社にとって、弁護士基準は裁判に発展したときに適用されるものと考えられているのです。
弁護士基準で示談するには、弁護士に示談交渉を依頼する必要があります。任意保険会社も、被害者に弁護士がついた場合には、「交渉が決裂すると裁判を起こされる可能性が高い」と考えます。そのため、弁護士基準で示談に応じる可能性があります。
むちうちの慰謝料が減額されやすいケース
一方で、以下のケースでは慰謝料が減額される可能性が高いといえます。慰謝料請求で損をしないためには、できる限り以下の事態は避けるようにしましょう。
事故後すぐに受診していない
交通事故に遭ってもすぐに病院に行かず、初診までに期間が空いてしまった場合は、事故と負傷との因果関係が疑われやすくなります。つまり、負傷したのが事実だとしても、事故とは無関係ではないかと加害者側から主張されやすいのです。
実際にも、事故から初診までに何日も空いてしまうと因果関係を証明できないと言うことにもなりかねません。
交通事故で少しでも身体に衝撃を受けたら、その日のうちに病院で受診することが大切です。
むちうちの場合は後日に症状が出ることもありますが、その場合も異変を感じたら早急に受診するようにしましょう。
通院日数が少ない
実際に病院に通院した日が少ない場合は、治療の必要性が乏しい軽傷であると判断されて、慰謝料が減額される可能性が高いです。
また、適切な頻度で通院していなければ、後遺障害等級認定の審査でも軽傷であると判断され、神経症状が残っていても「非該当」という結果になってしまうおそれがあります。
仕事や家事が忙しくても、適切な頻度で通院を継続することが大切です。むちうちの場合は、概ね週に2回は通院した方がいいでしょう。通院のために仕事や家事ができなかった場合には、休業損害を請求できます。
治療を途中で打ち切られた
むちうちで治療を開始してから概ね3ヶ月が経過すると、保険会社から「そろそろ治療費を打ち切りたい」と打診されるのが一般的です。
もし、まだ治っていない場合は後遺障害等級認定の申請をするか、自費で治療を続けるように促されます。
しかし、保険会社の言うことを鵜呑みにして治療費の打ち切りに応じると、入通院慰謝料は基本的にそれまでの治療期間の分しか受け取れなくなります。
むちうちの治療に必要な期間は1人1人異なるので、3ヶ月が経過しても治療の継続が必要なケースは多々あります。
保険会社から治療費打ち切りの打診を受けた場合は、主治医とよく相談し、治療継続が必要という意見を保険会社へ伝えてもらいましょう。それでも保険会社が打ち切ろうとする場合は、弁護士に相談した方がよいでしょう。
交通事故によるむちうちの慰謝料請求は弁護士に相談を
交通事故でむちうちになった場合、任意保険基準で計算した慰謝料で保険会社と示談する人が多いのが実情です。
それらの被害者のうち多くの人は、弁護士基準での慰謝料請求も可能であることを知らないものと思われます。
慰謝料請求をする際には、弁護士に依頼することで増額が期待できます。
また、事故に遭ったらできる限り早いうちに弁護士に相談することで、慰謝料を減額されるリスクを回避することも可能になります。
むちうちの慰謝料が気になる場合は、まずは弁護士に相談して専門的なアドバイスを受けることをおすすめします。