むち打ちの痛みは交通事故に遭った本人にしか分からないことが多いため、後遺障害認定を受けるのが難しいと言われています。
痛みが残っているのなら「痛い」と主張するのは当然ですが、やみくもに主張するだけでは後遺障害認定を受けることは困難です。
この記事では、そもそも後遺症や後遺障害とは何なのか、むち打ちになったときの後遺障害認定の申請方法やその注意点などを説明します。
後遺症の自覚症状と他覚症状
後遺症には自覚症状と他覚症状の2種類があります。まずはこの2つを比べながら「後遺症とは何か」という点から見ていきましょう。
治療終了後の症状=後遺症
後遺症とは交通事故で怪我を負い、その治療をしていたものの改善の見込みが立たない症状を指します。
むち打ちのケースでは、治療を続けているとどこかのタイミングで治療を終了することになります。その場合でも痛みやしびれといったむち打ちの症状が残ることがあります。このように治療を続けたけれども身体的あるいは精神的な症状が残るケースを後遺症があると言います。
むち打ちの後遺障害等級
後遺症とよく似た言葉で「後遺障害」というものがあります。これは、後遺症により労働能力を損失したとして認定された状態を指します。むち打ちの後遺症が後遺障害に認定されると、後遺障害逸失利益と後遺障害慰謝料が支払われる対象となります。
後遺障害は、症状の重さに応じて1~14級の等級に分けられます。等級のほかに、症状の種類や部位ごとに内容が細分化されており、合計すると約140種類にもなります。
むち打ちの場合は、多くのケースでは後遺障害等級14級に認定されるか否かが問題となります。ひどい交通事故の場合は、後遺障害等級12級に認定されるか否かが問題になることもあります。
むち打ちの自覚症状と他覚症状
後遺症の症状には、自覚症状と他覚症状の2種類があると述べました。自覚症状は、痛みや吐き気といった自覚できる症状を指します。痛みや吐き気以外にも、関節の違和感や手足のしびれなど、人によってさまざまな症状が起こります。そのすべては本人の感覚や主観に基づいており、客観的に証明できないという特徴があります。
他覚症状は客観的かつ医学的に捉えられる症状を指します。例えば骨折やむくみ、筋力や握力の低下などがこれに該当します。これらは医師などが検査をすることで把握することができます。
交通事故の被害者がむち打ちになった場合、他覚症状はなく、自覚症状だけということが珍しくありません。この点がむち打ちで後遺障害等級に認定されることを難しくしています。
むち打ちはさまざまな症状を引き起こす
むち打ちは、車の衝突などにより体に強い衝撃が加わることで生じる「首の捻挫」です。首周辺の痛みだけでなく、さまざまな症状を引き起こします。また、むち打ちは事故直後には症状が出ず、数日経ってから分かるケースも珍しくありません。
むち打ちの具体的な症状
交通事故が原因でむち打ちになると、次のような症状があらわれます。
- 首筋や背中の痛み
- 肩凝り
- 手足のしびれ
- 首が動かない、回らない
- 頭痛
- 耳鳴り
- 握力の低下
これ以外にも吐き気や不眠、めまい、倦怠感、食欲不振といった不定愁訴(検査をしても原因が特定できないもの)があらわれることがあります。首の痛みがなくなっても、この不定愁訴の症状が何カ月も続くことも多いのです。
「ちょっと調子が悪いみたいだけどそのうち治るだろう」と勝手に判断せず、必ず受診して検査を受けなければいけません。
むち打ちの他覚症状と診断方法
交通事故でむち打ちになったら、後遺障害等級が認定されやすいのは、他覚症状により後遺症を客観的に証明できるケースです。特に重視されるのが、レントゲンやMRIといった画像診断です。
ただし画像診断ができなければ、後遺障害等級の認定請求ができないのかと言うと必ずしもそうではありません。画像診断で他覚症状を発見できなければ、検査方法を再確認するとよいでしょう。
症状を発見する方法として、画像診断が適切でなかった可能性があります。そのときは医師と相談し、別の検査方法を検討しましょう。画像診断以外でも他覚症状を証明できることがあります。例えば臨床検査や神経学的な検査などです。
ちなみに後遺障害等級12級と14級との差は、他覚症状があるかないかの違いだと言えます。例えば、画像診断で神経圧迫の可能性が疑われ、なおかつ圧迫されている神経による知覚障害が確認できる場合は、他覚症状を証明できる可能性が高いでしょう。この場合、後遺障害等級12級が認められやすいと言えます。
自覚症状だけの場合は後遺障害等級14級を狙う
後遺障害の中でも後遺障害等級14級は、他覚症状がなくても認定される可能性があります。なぜなら後遺障害等級14級の条件は神経症状が残ることであり、自覚症状のみのむち打ちの場合もこれに該当するからです。
むち打ちは自覚症状だけのことも多いため、このような場合には後遺障害等級14級を目指すことになります。
むち打ちによる神経症状は画像診断では見えません。そのため医師に後遺障害診断書を書いてもらった後で、事故後の治療状況や症状の経過をもとに後遺障害認定等級機関がその是非を判断します。
後遺障害認定の手続きはどうすればよいのか?
後遺障害認定を受けるには、2つの方法があります。順に見ていきましょう。
事前認定による場合
1つ目は事前認定です。これは加害者側の任意保険会社が行うのが特徴で、被害者は後遺障害診断書を準備して加害者側の保険会社に送付します。そのため手続きの手間が省けます。
しかしこの方法には、被害者側にとって有利な資料を提出するように管理することが難しいというデメリットがあります。そのため後遺障害の認定を受けられるか否かはっきりしない場合、この方法は避けるほうが無難でしょう。
事前認定を利用すると、認定の結果が分かるのは申請後2~4か月が目安となります。認定されてもすぐに保険金が支払われるわけではなく、示談が成立したタイミングで支払われます。
被害者請求による場合
2つ目は被害者請求です。被害者自身が加害者側の自賠責保険に申請するのが特徴です。加害者側の自賠責保険は警察から取り寄せる交通事故証明書に記載されています。
そのため被害者側に有利な内容の資料を提出したり、自賠責保険の調査事務所に自分ら主張したりすることもできます。
被害者請求の場合、提出する書類がたくさん必要になります。後遺障害診断書はもちろん、交通事故証明書や保険金請求書、事故発生状況報告書、診断書などが必要です。加えて、休業損害証明書や通院交通証明書など、請求する内容によって必要な書類が増えていきます。
最終的に自賠責調査事務所に書類が送られて調査が始まります。該当する等級や、被害者の症状や交通事故の状況など、あらゆる内容を調査して結果が通達されます。結果が伝えられると、保険金が直ちに支払われます。
被害者請求の場合、事前認定とは異なり、後遺障害等級の認定によって自賠責保険から一定の支払いを受けるため、示談の成立を待つ必要はありません。この場合、自賠責基準と裁判基準(弁護士基準)の差額については、加害者側の任意保険会社に対して別途請求することになります。
後遺障害認定を受けるために必要なこと
むち打ちの後遺症が後遺障害認定を受けるために、被害者が注意すべきことをまとめます。
交通事故後はなるべく早く受診する
前述のとおり、むち打ちは交通事故から時間が経ってから症状が出るケースがあります。一般的には交通事故の直後から痛みが生じるとされていますが、むち打ちの場合は痛みに気付かないことがあるのです。
そのため病院の受診が遅れてしまい、交通事故とは関連性のない症状だと診断され、後遺障害認定が受けられなくなることがあります。症状に気付いたらなるべく早く病院へ行き、交通事故と関連のあるむち打ちだと診断してもらいましょう。
病院に行ったら、必要な検査はなるべく受けておくと安心です。整骨院で治療したい人もいるかもしれませんが、整骨院では診断書を出してもらえません。まずは整形外科を受診する必要があるのです。
むち打ちの治療の通院期間と通院頻度に気を付ける
後遺障害の認定を受けるには、通院の期間も大事です。治療期間が短いと、軽い症状だと判断されかねません。むち打ちの場合は概ね3~6か月の通院期間が目安となります。
また通院する際には、いつからいつまで通院したかだけではなく、通院頻度にも注意したほうがよいでしょう。後遺障害等級が認定されるほど重い症状のむち打ちになった人は、概ね3日に1回程度のペースで通院していることが多いとされています。
むち打ちの後遺障害については弁護士に相談をする
「後遺障害等級を申請したのに認められなかった」からといってすぐに諦めてはいけません。納得がいかない場合は、異議申し立てをすることができます。
ただし、一度判断が出されたものをみなさん自身で覆すのは難しいでしょう。このような場合、まずは弁護士に相談してみてください。弁護士に相談すると、あらゆる角度から可能性を探り、後遺障害等級に向けて全力でサポートしてくれます。実際に、弁護士が介入したことで後遺障害等級が認定されたケースも数多くあるのです。
後遺障害等級の申請後でも弁護士によるサポートは可能です。しかし、できるだけ早い段階で弁護士に相談することで、「後遺障害等級を認定してもらうための対策」や「保険会社との交渉や手続きなど」を任せることができます。
弁護士は交通事故被害者の強い味方です。ぜひ一度相談してみてください。
まとめ
むち打ちの症状は、客観的な証明をすることが困難なケースが多いため、適正な慰謝料請求ができないことがよくあります。だからこそ後遺障害認定を適切に申請するため、後遺症が残った場合は弁護士に依頼して必要な対処をおこないましょう。