交通事故で負傷した結果、後遺障害(後遺症)が残ってしまった場合の被害者救済の道は存在します。それは、自賠責法に基づいた後遺障害等級認定制度です。被害者の方は、等級認定制度に従い、慰謝料のほか、逸失利益、将来の治療費・介護料を受け取ることができるのです。
ここでは、後遺障害等級認定の定義を説明するとともに、事前認定・被害者請求の2つの申請方法のメリット・デメリット、後遺障害診断書の作成の注意点、等級認定の仕組み、認定を不服とする場合の対応方法(異議申し立て、自賠責紛争処理機構への申請、裁判所への訴え)、またそれぞれの段階における注意点を解説します。
後遺障害等級認定とは?
「後遺症」と「後遺障害」を同じ意味ととらえがちですが、厳密には異なるものです。「後遺症」は、治療を続けても完治せず将来的に回復の見込みがない身体的または精神的な症状が残っている状態を指します。
「後遺障害」は、交通事故によって受けた身体的または精神的な傷害があり、たとえ治療を続けたとしても良くも悪くもならない状態に達した後(症状固定後)、労働能力の喪失を伴う症状が残ることを言うのです。
労働能力の喪失を伴う「後遺症」ならば、等級認定の申請が通ると「後遺障害」とされるのです。
後遺障害等級認定とは、被害者個人の損害算出を迅速かつ公平に行うため、後遺障害を16等級142項目の等級に分類し、この中のいかなる等級に該当するかの判断をいいます。この後遺障害等級は、自賠責保険や、任意保険での採用はもちろん、裁判においても参考にされるほど重要な規定です。
後遺障害が残った場合には、障害の程度によって1級から14級までの後遺障害の等級認定を受けることが可能です。もっとも重いものが1級で、もっとも軽度なのが14級となり、万が一、重大な後遺障害が残った際には、基本的に後遺障害1級あるいは2級の認定を受けることができます。
後遺障害等級のわかりやすい解説 - 後遺障害別等級表・労働能力喪失率
後遺障害等級認定の申請前に知っておきたいこと
症状固定
交通事故後、すみやかに後遺障害等級認定制度の申請を行うことは困難です。事故後しばらくの間は、容体が改善したり悪化したりする可能性があるため、等級認定の判断基準となるような、一定の状態が保てないためです。
被害者の状態を評価するポイントとなるのが、症状固定です。症状固定とは、治療を続けても改善の見込みがなく、長期的にみて回復・悪化する可能性がなくなった段階を意味します。被害者とその家族は、症状固定後に、後遺障害等級認定を申請することができるのです。
症状固定前と後の賠償額の違い
実務上では、症状固定前を、「傷害」、固定後を「後遺障害」部分とします。そして、損害賠償の性格を2つに区分して考えます。「傷害」は、事故発生から症状固定までのケガを指します。症状固定後に後遺障害等級認定を受けた場合は、「後遺障害」となるのです。
それぞれの損害賠償は異なります。
①傷害:積極損害(治療費、入院費、入通院交通費、付添看護費等)、消極損害(休業損害)、入通院慰謝料
②後遺障害(等級認定):後遺障害慰謝料、逸失利益、将来の治療費・介護料
後遺障害(後遺症)が残った場合は、①と②の両方を請求できることができます。
症状固定についての注意点
支払い保険料を抑えたい保険会社は、診療費の打ち切りを通告するなど、症状固定にするように被害者に対して催促することもあります。当然のことですが、保険会社の要望に気安く応じるのは避けたいものです。診断するのは保険会社ではなく医師であることを忘れないようにしましょう。
後遺障害等級認定を受ける際の手順
誰が認定を行うのか?
後遺障害等級認定を行うのは、診断書を作成する主治医あるいは担当医と思われがちですが、それは誤りです。認定を行うのは、損害保険料率算出機構となります。
具体的にどのように認定が行われるのか見ていきます。
2つの申請方法
申請方法は二つあります。どちらを選ぶかによって、メリットが異なってきます。
1. 事前認定(加害者請求)
加害者側の任意保険会社が申請を行うことを事前認定(加害者請求)と呼んでいます。事前認定という名称は、任意保険会社が、後遺障害等級認定を行う損害保険料率算出機構に対して事前に等級認定を依頼することから来ています。通知された等級を基に、任意保険会社が損害賠償金を被害者に支払うことになるのです。もちろん、任意保険会社は被害者に対して支払った賠償額を自賠責保険会社に請求することになります。
被害者の方がすることは、後遺障害診断書を任意保険会社に提出するだけとなります。自賠責保険の請求手続きは、任意保険会社が行うので、書類整備などの面倒な準備は必要ありません。
ところが、デメリットも存在します。
【デメリット】
任意保険会社は、後遺障害等級認定の賠償額を事前に算定することになるため、後遺障害診断書の提出をせかす、つまり、早い段階で症状固定に持って行くよう促すこともあるのです。これでは、後遺障害等級認定の基準に満たずに、等級認定が認められないおそれがあります。
また、事前認定では、等級の結果が任意保険会社に通知されます。被害者側は、結果を直接知ることはできず、結果の詳細についても任意保険会社だけが知ることになります。分かりやすく言えば、任意保険会社の手続きプロセスがブラックボックス化するということです。
すでに説明したように、事前認定の原則は、自賠責保険の側で等級認定が行われる前に、任意保険会社が賠償額を算定して被害者に支払う、というものでした。ところが、事前認定の前提となるのは、「一括払い」という制度なのです。「一括払い」は、自賠責保険と任意保険の賠償額を任意保険会社が一括で払うという意味です。
「一括払い」は実は、示談を前提条件にしているのです。つまり、示談が成立しない限り、後遺障害等級認定の損害賠償金も支払われることはありません。被害者側に不利な損害賠償額を提示された場合には、路頭に迷うことになりかねないのです。
2. 被害者請求
もう一つの申請方法が、被害者請求です。文字通り、被害者自身が自賠責保険会社に対して請求するものです。
事前認定の項で指摘したデメリットが解消されるのが、被害者請求の強みです。
- じっくり治療して症状固定を待つことができる
- 自賠責保険側から認定結果通知が届く
- 示談が成立しなくても認定結果に基づいて自賠責保険会社から支払いが行われる
というメリットがあります。
後遺障害等級認定において被害者請求をおすすめする理由とその手続き
ただ、被害者請求にもデメリットがあるのです。
【デメリット】
自賠責保険会社に申請するには、次にあげるようなたくさんの書類をそろえなければならないのです。
- 保険金(共済金)・損害賠償額・仮渡金支払請求書
- 交通事故証明書(人身事故)
- 事故発生状況報告書
- 診療報酬明細書
- 事業主の休業損害証明書(源泉徴収票添付)、納税証明書、課税証明書(取得額の記載されたもの)または確定申告書等
- 損害賠償額の受領者が請求者本人であることの証明(印鑑証明書)
- 委任状および(委任者の)印鑑証明
- 後遺障害診断書
- レントゲン写真等
※被害者が未成年で、その親権者が請求する場合は、上記のほか、当該未成年者の住民票または戸籍抄本が必要です。
これだけ多くの書類を独自に用意するのは、被害者の方にとっては相当な負担です。次に説明しますが、この中でも後遺障害診断書は等級認定を受けるのにとても重要な書類であり、診断書を用意するのは大変な作業となります。
後遺障害診断書の作成依頼
後遺障害等級認定は、書類のみの審査なので、書類の完成度が重要となってきます。とりわけ後遺障害診断書の内容の良し悪しは、等級認定を左右するものなのです。
後遺障害診断書は、症状固定後に被害者側の依頼によって、担当医師が作成します。通常の診断書ならば医師が作成するのに支障はありませんが、自賠責法に基づく後遺障害診断書の作成では、次のような問題が出てきます。
- 医師が後遺障害診断書の作成を拒む
- 医師が後遺障害診断書についての知識が乏しい
- 後遺障害等級認定に必要な検査が行われない
医師は患者の治療を行うのが仕事ですが、正直なところ、後遺障害等級認定の診断書作成や必要とされる検査は、患者の治療の延長線上にはないのです。このため、問題が生じることになります。
必要書類の提出
すでに説明したように、事前認定と被害者請求では、被害者側が提出する書類が異なってきます。
【事前認定】
加害者側の任意保険会社に対して、後遺障害診断書を提出します。任意保険会社はその他の必要書類をそろえたうえで、後遺障害診断書とともに自賠責保険会社に提出します。
【被害者請求】
加害者側の自賠責保険会社に対して、後遺障害診断書、レントゲン写真、保険金(共済金)・損害賠償額・仮渡金支払請求書等を提出します。
等級認定
認定の仕組みは想像する以上に込み入っています。
- 請求書類を自賠責保険会社等に提出
- 自賠責保険会社等は損害保険料率算出機構に依頼
- 損害保険料率算出機構は傘下の自賠責損害調査事務所に請求書類を送付
- この自賠責損害調査事務所が等級を認定
保険会社等に認定された等級を通知
等級が認定された後は次のように通知されます。
【事前認定】
自賠責保険会社→任意保険会社→被害者
【被害者請求】
自賠責保険会社→被害者
等級認定に不服のある場合
異議申し立て
損害保険料率算出機構が認定した後遺症等級について不満があれば、異議申し立てをすることが可能です。事前認定をしている時には、加害者側の任意保険会社に、被害者請求をしている場合は加害者加入の自賠責保険会社に書類を提出します。異議申し立ては何度でも行うことができます。
ただし、医学的な証拠を追加提示しなければ認定がくつがえることはないことに注意しましょう。
自賠責紛争処理機構への申請
異議申し立てをしても、不満が残る場合には、財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構に申請する方法があります。同機構は、専門的かつ公正中立な第三者である弁護士や医師などによって構成されており、異議申し立て内容を審査して審査(調停)結果を提供してもらうことができます。
裁判所への訴え
後遺障害等級認定について、どうしても納得できない場合は、裁判所に訴えることも可能です。裁判所は、損害保険料率算出機構の認定等級によって拘束されることはありません。裁判所で認められた結果が何よりもまず優先されるのです。
認定を受けるうえでの注意点
後遺障害等級認定の申請手続きを行う、それぞれの段階において、被害者が解決しなければならない問題が出てきます。すでに説明していますが、改めておさらいしてみましょう。
症状固定
加害者側の任意保険会社が、保険料の支払いを抑えようとして、治療費の打ち切りを通告してくることは珍しくありません。この場合には、本来の症状固定となる前に症状固定が決まってしまうリスクがあるのです。これでは、後遺障害等級認定の審査に影響を与えることになってしまいます。
被害者請求
すでに説明した通り、被害者請求は、事前認定に比べるとリスクの少ない申請方法ですが、被害者側が用意しなければならない書類が多いのが難点です。
後遺障害診断書
担当医師に対して後遺障害診断書の作成を依頼したとしても、被害者単独では、
- 医師が診断書の作成を拒否する
- 医師が診断書の作成に習熟していない
- 後遺障害等級認定に必要な検査が行われない
などといった問題に対処できません。
異議申し立て
異議申し立てに必要となる、追加の検査などの新しい医学的証拠を用意するのは専門的な医学・法律の知識がなければ対応できないでしょう。
まとめ
後遺障害の等級認定の際のもっとも重要な点は、訴訟までに至らない比較的、早い段階から経験と実績のある弁護士へ相談することです。
最後にあげた注意点を読んでいただいても明らかですが、十分な経験を積み、医学的知識を有した弁護士の支援が必要となる場面は数多くあります。後遺障害等級認定の手続きに滞りなく対応し、被害者やその家族にとって納得の行く賠償額を得ることが期待できます。まずはお気軽に相談してみませんか。