交通事故に遭って後遺障害(後遺症)が残ってしまった場合、「十分な補償」を受けたいと思うのは当然のことです。
業務中や通勤中など労災が適用できる事故では、労災保険だけでなく自賠責保険も利用することができるのです。ただし、労災保険と自賠責保険では「手続き」が異なるため、注意しておこなわなければなりません。
この記事では、後遺障害の補償で労災使う際の注意点、「労災と自賠責の関係」について詳しく解説していきます。
原則として、労災と自賠責の両方からの補償を受けることはできませんが、実は後遺障害が重ければ両方からの補償を受けられる可能性もあるのです。
交通事故被害で「労災」が使えるケース
労災保険は、労働者が業務中(業務災害)・通勤途中(通勤災害)にケガや病気をした場合に補償してくれる制度です。業務中以外にも、通勤途中も含まれます。
そのため、業務中・通勤中に交通事故被害に遭った場合には労災が適用されると考えて問題ありません。
ただし、通勤中の事故は「自宅と職場の往復経路」でなければ、適用されない可能性があります。
【交通事故被害で労災が適用されるケース】
- 業務災害:業務中・業務開始前後・休憩中の事故
- 通勤災害:通勤途中の事故
後遺障害が残る場合、労災はどの程度補償してくれる?
業務中・通勤中に事故被害に遭い、治療を続けても障害が残ってしまう場合もあるでしょう。
このような場合、障害に応じた等級が認定され、以下のものを受け取ることが可能になります。
- 障害補償年金:障害等級表1~7級に該当する人に支払われるお金
- 障害補償一時金:障害等級8~14級に該当する人に「一時的」に支払われるお金
- 障害特別支給金:等級に応じて「一定額」支払われるお金
等級 | 金額 |
---|---|
第1級 | 給付基礎日額の313日分 |
第2級 | 給付基礎日額の277日分 |
第3級 | 給付基礎日額の245日分 |
第4級 | 給付基礎日額の213日分 |
第5級 | 給付基礎日額の184日分 |
第6級 | 給付基礎日額の156日分 |
第7級 | 給付基礎日額の131日分 |
※給付基礎日額とは、労働基準法の平均賃金に相当する金額を指す。
等級 | 金額 |
---|---|
第8級 | 給付基礎日額の503日分 |
第9級 | 給付基礎日額の391日分 |
第10級 | 給付基礎日額の302日分 |
第11級 | 給付基礎日額の223日分 |
第12級 | 給付基礎日額の156日分 |
第13級 | 給付基礎日額の101日分 |
第14級 | 給付基礎日額の56日分 |
等級 | 金額 |
---|---|
第1級 | 342万円 |
第2級 | 320万円 |
第3級 | 300万円 |
第4級 | 264万円 |
第5級 | 225万円 |
第6級 | 192万円 |
第7級 | 159万円 |
第8級 | 65万円 |
第9級 | 50万円 |
第10級 | 39万円 |
第11級 | 29万円 |
第12級 | 20万円 |
第13級 | 14万円 |
第14級 | 8万円 |
障害補償年金は「前払」も可能
障害等級が1~7級の場合、年金という形で毎月支給されます。
ただし、希望をすれば等級に応じて「まとまった金額の前払い」を受けることもできます。
等級 | 金額 |
---|---|
第1級 | 給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分、1000日分、 1200日分または1340日分 |
第2級 | 給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分、1000日分 または1190日分 |
第3級 | 給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分、1000日分 または1050日分 |
第4級 | 給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分または920日分 |
第5級 | 給付基礎日額の200日分、400日分、600日分または790日分 |
第6級 | 給付基礎日額の200日分、400日分、600日分または670日分 |
第7級 | 給付基礎日額の200日分、400日分または560日分 |
ただし、あくまでも「前払」であることに注意してください。
前払金を受け取った場合、本来ならば「毎月支給される額」が「前払金の額」に達するまで、支給が停止されます。
後遺障害が残る場合、労災と自賠責どちらの補償を受けるべき?
業務中・通勤中の事故など労災保険が適用できるケースであっても、通常の事故と同様、加害者の「自賠責保険」を利用することはできます。
自賠責保険も労災保険と同様に、等級に応じた支給があり、「後遺障害慰謝料」として支払われます。
等級 | 金額 | |
---|---|---|
2020/03/31以前の事故 | 2020/04/01以降の事故 | |
第1級 | 1,100万円 (要介護の場合は1,600万円) |
1,150万円 (要介護の場合は1,650万円) |
第2級 | 958万円 (要介護の場合は1,163万円) |
998万円 (要介護の場合は1,203万円) |
第3級 | 829万円 | 861万円 |
第4級 | 712万円 | 737万円 |
第5級 | 599万円 | 618万円 |
第6級 | 498万円 | 512万円 |
第7級 | 409万円 | 419万円 |
第8級 | 324万円 | 331万円 |
第9級 | 245万円 | 249万円 |
第10級 | 187万円 | 190万円 |
第11級 | 135万円 | 136万円 |
第12級 | 93万円 | 94万円 |
第13級 | 57万円 | 57万円 |
第14級 | 32万円 | 32万円 |
この「後遺障害慰謝料」と合わせて、それぞれの収入に応じた「逸失利益(後遺障害がなければ得られたであろう利益)」を自賠責保険から受け取ることができます。
原則として、どちらか一方の保険からしか補償を受けることはできません。両方に申請したとしても、「支給調整」がおこなわれるため、2重取りができない仕組みになっています。
しかし、後遺障害に関しては、どちらからも補償を受けられる可能性があるため、必ずどちらも申請するようにしてください。
両方から「後遺障害認定」を受けるべき理由
通常「自賠責の補償」と「労災の補償」は、どちらか一方しか受けとることはできません。ただし、後遺障害等級7級以上に支給される「障害補償年金」の場合は話が変わってきます。
実は、自賠責保険からの補償を受けた場合でも、7年経過すれば「障害補償年金」を受け取ることができるのです。
わかりやすい例として、後遺障害等級5級が認定され、以下のような補償が受けられると仮定してみます。
- 自賠責の損害賠償金:1,000万円
- 労災の障害補償年金:100万円(年額)
障害補償年金は「毎年受給者が亡くなるまで支払われるもの」です。
この場合、自賠責で1,000万円受け取れば、「障害補償年金」はその分受け取れることができなくなります(このケースで言えば10年分)。しかし、10年待たずとも、「7年経過した段階」で障害補償年金の支給を開始するよう、厚生労働省から通達が出ています。
このように労災保険が適用でき且つ重い障害が残る場合には、実質的に「労災と自賠責保険の両方」から補償を受けることができるというわけです。
後遺障害等級の申請について
これまで紹介した後遺障害に関する補償を受けるためには、「後遺障害等級」を認定してもらう必要があります。そのため、症状が固定した段階で「後遺障害等級」の申請をおこなってください。
ただし、労災と自賠責では申請先などが異なるため注意が必要です。
労災保険に申請する場合
後遺障害等級の認定を受けるには、「後遺障害診断書」を労働基準監督署に提出しなければなりません。後遺障害診断書は、「労基の窓口」「勤務先の担当者」「治療を受けた病院」「厚生労働省のホームページ」で取得することができます。
会社の担当者が手続きをおこなってくれることもありますが、基本は被害者自身がおこなうと考えてください。
後遺障害等級を申請する場合、医師に診断書をかいてもらったり、また状況に応じて必要な書類(レントゲン写真など)を集める必要があります。
そのため、申請前には一度労基署に確認してから手続きを進めてください。
自賠責保険に申請をする場合
自賠責保険に対して後遺障害等級の認定を申請する場合には、
- 事前認定
- 被害者請求
の2つの方法があります。
「事前認定」は、加害者側の保険会社に申請の手続きをしてもらうやり方です。その一方、「被害者請求」は被害者自身が申請手続きをおこなうことになります。
それぞれの詳しい方法については、以下の記事をご覧ください。
後遺障害等級認定における事前認定の申請方法・そのメリットとデメリット
後遺障害等級認定において被害者請求をおすすめする理由とその手続き
どちらのやり方でも、自賠責保険の場合、審査するのは「損害保険料率算出機構」という機関でおこないます。
労災保険 | 自賠責保険 | |
---|---|---|
申請先 | 労働基準監督署 | ・自賠責保険会社(被害者請求の場合) ・任意保険会社(事前認定の場合) |
審査する機関 | 労働基準監督署 | 損害保険料率算出機構 |
審査の方法 | ・書類 ・指定医との面談 |
原則書類のみ |
どちらから先に申請すべき?
後遺障害等級の認定を申請する場合、どちらの保険から手続きを進めるのか決まりはありません。ただし、障害の程度が重いケースでは「労災保険」から先に申請することをおすすめします。
その理由としては、
- 労災保険の方が被害者に有利な等級を認定してくれる可能性が高い
- 労災保険が被害者に有利な等級を出せば、自賠責保険の認定でも有利に働く
ということがあげられます。
また、「被害者にも過失がある場合」も先に労災保険に申請してください。なぜなら、自賠責保険では、被害者の過失割合に応じて賠償金を減額する「過失相殺」があるからです。
労災保険には、過失割合に応じて金額が減ることはほとんどありません。そのため、労災保険から先に支払いを受け、「補えなかった金額」について自賠責保険から補償してもらうという方法が良いでしょう。
それぞれで等級の認定が異なる場合はどうなる?
労災保険と自賠責保険では、「同様の認定基準」を採用しているため、基本的には後遺障害等級は同じものになります。
しかし、まれに「それぞれの等級が一致しない」「一方では後遺障害等級が認められたのに、一方では認められなかった」ということが起こるケースがあります。
原因としてあげられるのは、
- それぞれの書類を作成した医師が異なっている
- 資料を作成した時期が異なるため、症状が変わっている
というものです。
後遺障害等級の認定に納得がいかない場合には、
- 自賠責保険:異議申し立て
- 労災保険:審査請求
をおこなうことで、後遺障害等級が認められるよう働きかけることができます。
ただし、どちらにせよ、後遺障害等級が認定されなかった理由を覆す証拠を自分で集めなければいけないのです。これには高度な医療や法律に関する知識が欠かせません。あなた1人でおこなうことは簡単ではないのです。
後遺障害等級に関する問題は弁護士に任せるべき
労災保険・自賠責保険にかかわらず、後遺障害等級の認定を受けるためには、非常に面倒な手続きをおこなわなければなりません。しかし弁護士に依頼をすれば、後遺障害等級にかかるすべての手続きを代行してくれます。
事故直後から依頼をしておけば、加害者との交渉などもすべて任せることができるので、あなた自身は治療やリハビリに専念することができるのです。
高い後遺障害等級が認定されるためのサポートが受けられる
後遺障害等級を認定してもらうためには、医師が作成する「後遺障害診断書」が非常に重要になります。交通事故に強い弁護士は、後遺障害等級の申請について熟知しています。
そのため、「診断書の作成方法や検査方法」について、医師と相談しながら進めるため、「適正な後遺障害等級」が認定されやすくなるのです。
すでに作成された「後遺障害診断書」に関しても、内容や検査方法に過不足がないかをしっかりと調べてくれます。
弁護士基準で損害賠償請求も可能になる
弁護士に頼むメリットはそれだけではありません。弁護士が間に入ることで、高額な賠償請求が見込める「弁護士(裁判)基準」を採用することができます。
この基準を使えば、自賠責保険よりも高い賠償金を請求できるでしょう。全体の賠償金が2~3倍になる可能性も十分にありえるのです。また、会社側に安全配慮義務を怠っている場合には、会社に対して後遺障害の慰謝料を請求することも可能です。
後遺障害は今後の生活に大きな影響を残します。少しでも安心して暮らすためにも、交通事故に強い弁護士に相談することから始めませんか。