交通事故の被害に遭い、示談に臨んだものの、不成立となった場合はどうすれば良いのでしょうか。示談不成立の際には、いくつかの対処方法がありますが、そのうちに含まれるのがADR(裁判外紛争解決手続き)です。このADRを専門とする機関の中でも、代表的なのが交通事故紛争処理センターです。
それでは、交通事故紛争処理センターとはどういうものなのでしょうか?被害者の方々の知識となるよう、同センターの業務やそのフロー、利用のメリット、デメリットについてわかりやすく解説してみたいと思います。
交通事故紛争処理センターとは?
交通事故紛争処理センターは、日本における先駆的なADRの機関です。内外の損害保険会社等から拠出された財源を基に、センターは業務を行っています。
そもそもADRとは?
さて、ADRという耳慣れない言葉が出てきましたので、説明したいと思います。ADRは、日本語では、「代替的紛争解決手続き」あるいは「裁判外紛争解決手続き」とされており、そのうちの「代替的」(Alternative)「紛争」(Dispute)「解決」(Resolution)の英語の頭文字を表したものです。
ADRはどのような活動なの?
ADRの活動は、調停、仲裁、あっ旋の3つです。本来ならば、それぞれ意味が異なるものですが、ごく簡単に言ってしまえば、当事者同士の間に第3者が入り、うまい具合に解決するというのが主旨となります。
センターの業務は上記の一般的な活動とイコールではなく、その他にも有益な業務をしていることに注意したいものです。以下に説明します。
センターの業務
交通事故紛争処理センターは、被害者と加害者加入の保険会社等の間に入って、示談の際に生じた紛争を解決するように支援する業務を行っています。交通事故紛争処理センターの業務は以下の4つです。
- 法律相談
- (相談担当)弁護士の紹介
- 和解あっ旋
- 審査
さて、上にあげた項目では、①法律相談と②弁護士紹介、④審査が、一般的なADRの定義には含まれていませんでした。この点を含めて、次に紹介したいと思います。
交通事故紛争処理センターができることは?
前項にあげた業務によって可能になることを説明したいと思います。
弁護士による無料の法律相談が受けられる
法律相談は、無料で行われます。この際、センターに属する相談担当の弁護士が紹介されます。この弁護士が、被害者=申立人の主張を聞きます。申し立ての際に提出された資料を確認した上で、被害者に対して問題点の整理を説明したり、助言を行ったりします。
通常は3~5回で和解が成立している
法律相談の次のステップは、和解あっ旋となります。和解あっ旋を簡単に言うと、被害者側と加害者側の双方の間に立った第三者が解決方法を示すことによって、和解が成立するように促す仕組みのことです。センターの場合は、第三者=相談担当弁護士となります。
さて、センターで、和解あっ旋となるケースは以下の2つです。
- 被害者(=申立人)が、相談担当弁護士に要請した場合
- 相談担当弁護士が必要と判断した場合
被害者側と加害者側が和解あっ旋の場に出席したうえで、相談担当弁護士が双方から話を聞きます。相談担当弁護士は、争点や賠償額などを中立公正な立場で熟慮し、和解のための解決方法(=あっ旋案)をまとめ、双方に提示します。
損害賠償の関係資料が整った前提で、人身事故のケースでは、通常3~5回で和解が成立しています。物損事故のケースでは、通常1~2回で和解が成立しています。
この和解あっ旋が不調に終わった場合には、当事者双方は、以下に説明する審査を申し立てることができます。
審査会の結果を被害者が同意すれば和解が成立する
審査会といっても何の審査なのかすぐに分からないかもしれません。実は、交通事故紛争処理センターは、主だった損害保険会社との間の取り決めがあるため、保険会社等はセンターで審査された結果を尊重することになっているのです。
それでは、何を誰が審査するのでしょうか。
被害者(申立人)と加害者側の双方の言い分を審査員が聞きます。そして、審査会は裁定を出します。裁定というのは、双方の主張を考慮したうえで、公正と考えられる結論です。結論は、不成立となった示談において争いのあった点について下されるものです。
審査会の構成員、つまり審査員には、法律学者、裁判官経験者、ベテラン弁護士が就くことになっています。
被害者(=申立人)は結論(=裁定)を受け入れる必要はありません。しかし、前述の通り、加害者側の保険会社等は結論を尊重することになっています。このため、被害者が審査結論に同意すれば、和解が成立します。
交通事故紛争処理センター業務の流れ
申し込みから手続き終了までの流れは次の通りです。
※申立人:被害者。相手方:加害者または保険会社等
被害者がセンターに電話
↓
センター・予約受付
↓
センター・申込書等の送付
↓
初回相談・相談担当弁護士による面接相談
↓
和解あっ旋を行うか判断
↓
和解あっ旋(申立人・相手方が出席し相談担当弁護士が和解あっ旋)
↓
和解あっ旋案を双方に提示
↓
合意(示談書等)
→【あっ旋不調の場合】
↓
審査申し立て
↓
受理
↓
審査開催日の連絡
↓
審査会裁定(申立人・保険会社等双方出席)
↓
同意(示談書等)
→【不同意の場合】
↓
不同意の場合は訴訟等になる
利用の際に注意したいこと
さて、これまでいろいろと説明してきましたが、利用するメリットをさらに簡単に言い表してみたいと思います。
メリット
- 無料で利用できる
- 保険会社等が裁定(=審査結果)を尊重してくれる
- 裁判よりも時間が短くて済む
- 公正、公平な解決方法が期待できる
以上では、実現が可能なものばかりスポットを当ててきました。しかし、先導的な交通事故紛争処理センターといえども万能とは限りません。できないこと、あるいはデメリットもあります。
できないこと
センターができないことについて主だったものを以下に記します。
- 自転車と歩行者、自転車と自転車の事故による損害賠償に関する争い
- 被害者自らが契約している保険会社等との保険金等の支払いに関する紛争
- 自賠責保険(共済)後遺障害の等級認定に関する紛争
- 加害者が任意自動車保険(共済)契約をしていない場合
- 加害者加入の任意自動車保険等の約款に被害者の直接請求権の規定がない場合
- 和解あっ旋の予約時点で訴訟または調停が行われている場合
- 他のADR(裁判外紛争解決機関)における手続が行われている場合
- 不正請求等不当な目的で和解あっ旋の申し込みがされたと認められる場合
それでは、そもそもデメリットはあるものなのでしょうか。
デメリット
結論から言うと、他のすぐれた機関や制度と同じように、完全無欠のものなどありません。センターを利用する際のデメリットも存在するのです。
センターを利用するには、被害者(=申立人)本人が出席しなければならないのが原則です(例外が認められる場合もあります)。しかし、被害者が出席する際に、仕事を休まなければならずに収入が減った場合、これを補償する制度(休業補償)を利用できません。また、何度も通わなくてはならないので、被害者にとっては労働以外の時間や余分な労力を取られることになってしまいます。
後遺症に悩む被害者の方にとっては、後遺障害等級認定が大事ですが、前述の通りセンターでは扱いません。
無料の法律相談では、相談内容によって司法手続を被害者側に教える、あるいは弁護士会やその他の機関を紹介するだけの場合もあります。つまり、相談のみで終了する場合もあるのです。
また、一般的な法律相談とはまるで異なっていることに注意したいものです。交通事故紛争処理センターのホームページには、「センターの業務は、自動車事故の示談をめぐる紛争解決を前提としていますので、事故直後や治療中等、まだ示談に至らない段階での法律相談はお受けしていません」とあります。
一般の弁護士の無料相談と異なるのはこの点にあります。つまり、一般の弁護士は、これとは反対に、事故直後や治療中、あるいは示談前の段階でも、気軽に相談できるのです。
また、センターのホームページにはこのような断り書きも記されています。
「相談担当弁護士は、法律相談、和解あっ旋にあたって申立人(被害者)の立場に立って事情を伺いますが、あくまでも中立公正な第三者の立場で和解あっ旋を行うためのものであり、申立人(被害者)の委任弁護士ではありません」
まとめ
交通事故紛争処理センターの利用は、これまで説明してきたようにメリットとデメリットを踏まえたうえで検討する必要があります。
デメリットが気になる場合は、まずは一度、交通事故に強い弁護士に相談されることをおすすめします。適切な被害者請求が可能になります。