交通事故の中でも追突事故ほど被害者にとって理不尽な事故はありません。いわゆる「もらい事故」、「オカマを掘られる」などと呼ばれる追突事故ですが、その主な原因は後続車の脇見運転やよそ見運転という人災によるものです。
しかもスピードの出し過ぎによる激しい追突事故が多いため、「むち打ち」や「高次脳機能障害」などの後遺症で苦しんでいる被害者は少なくありません。
被害者やその家族にとってこのような「追突事故」は断じて許せないものですが、時計の針を巻き戻すことはできません。せめて、適切な慰謝料、示談金、後遺障害等級認定を勝ち取りたいものです。
しかし、気をつけたいのが過失割合「100:0」あるいは「80:20」のようなケースでも保険会社は「慰謝料を出し渋る」、「示談金を少なくしようとする」、「後遺障害等級を認めない」など、一方的な主張を通そうとすることがあります。
この記事では、追突事故の際の保険会社との争点となる問題、さらに被害者がどうすれば慰謝料・示談金を増額できるか注意すべきポイントとその対応方法について解説します。
追突事故の現状と実際
突然、後続車がぶつかってくる「追突事故」。被害者にとってみればそんな事故被害に遭うとは夢にも思いません。しかし、車の交通事故において一番多いのが追突事故なのです。
平成28年の警察庁交通局が発表したデータを見ると、発生した車両事故499,201件のうち追突事故は174,567件です。つまり交通事故の約35%が追突事故によるものでした。しかも、そのうちの168,155件(約96%)が車両停止中に起きたものです。
【事故類型別交通事故件数の推移】
【参考】:警察庁交通局 事故類型別交通事故件数の推移
なぜ、停車している車にぶつかってくるのか不思議に思いますが、データを見て分かるように追突事故とは結局のところ「運転者の前方不注意」により起きているのです。
追突事故が起きるケース
普通では起こり得ない追突事故はどのような状況・場所で起きているのでしょうか?
追突事故の現場は大きく5つあります。
- 信号待ちの停車中
- 側道に停車中(一般道、高速道路)
- 渋滞時の停車中
- 駐車場で停車中
- 普通に走行中
停車中の追突事故は1~4が該当しますが、いずれも起こるべくして起こる事故ではありません。そのため、追突された被害者には過失が無い、仮に過失があったとしても割合は少ないのが特徴の事故です。
追突事故は加害者の不注意(過失)が大半
前方を確認しながら法定速度で運転していれば追突事故はまず起こることはありません。結局は加害者の過失(不注意)が主な原因なわけですが、どのような不注意により追突事故が引き起こされるのでしょうか。
- わき見運転(よそ見運転)
- 集中力・判断力の低下
- 未熟運転
- 居眠り運転
- 飲酒運転
- スピードの出し過ぎ
追突事故の原因で最も多いのは「わき見運転」や「スピードの出し過ぎ」が考えられます。また、重過失である「飲酒運転」や「居眠り運転」の件数自体は減っているものの、逆に社会問題となっている若者の「未熟運転」や高齢者の「アクセルとブレーキの踏み間違え」による追突事故は今後増加することが考えられます。
追突事故の被害者が注意すべき4つのポイント
さて、ここからは追突事故の被害者救済を念頭に説明していきます。
追突事故の被害者が知るべきポイントが「治療について」、「後遺障害等級認定」、そして「保険会社との示談交渉」のための知識です。
さらに、追突事故のように被害者の過失が少なく損害賠償額が大きくなるケースでは「弁護士への相談」が賠償額増額できるかの大きな分かれ目と言えます。弁護士のサポートがあれば、「治療」、「後遺症」、「示談」の問題を有利に進めることができるからです。
慰謝料請求、示談金の増額のために注意すべきポイントについてそれぞれ解説していきます。
1.追突事故の治療の考え方
追突事故は、運転者(同乗者)にとって予期せぬ出来事です。「自分の目には衝突するシーンが見えないまま、突然ドーンと来るわけです…」事前に心とカラダの準備ができていないため身体に与えるダメージは深刻です。
例えシートベルトをしていても、頸部(首)、頭部、胸部などに激しい損傷を受けたり、また脳や神経に損傷を受けて社会生活に影響を与える「高次脳機能障害」のような後遺症が残ることもあります。
また、軽い追突事故であってもしばらくたった後に「痛み」、「吐き気」、「めまい」、「抑うつ」などの後遺症が発症することもよくあります。このように追突事故では、被害者の心身を蝕むような損傷を受けるケースが多いのが特徴です。
そのため、追突事故後は社会復帰へ向けてしっかり治療するという考え方が重要になります。「あのときしっかり治療しておけばよかった」と後悔しないように、整形外科への通院はもちろんのこと、医師が認めれば「整骨院」、「鍼灸」、「温泉治療」なども治療費として扱われますので通院を検討すべきでしょう。
しかし、気をつけたいのが保険会社の対応です。保険会社は治療費、慰謝料を少なくするために被害者に対していろいろな横やりを入れてくることがあります。それもあって保険会社に言われるままに治療を断念する被害者もいます。
もし保険会社の主張により治療を続けられない場合には弁護士に相談することです。
追突事故-注意すべきはむち打ち症(頚椎捻挫)の治療
自動車事故で負傷者の約8割が「頸部(けいぶ)」という首の部分を損傷すると言われています。その代表的な損傷がむち打ち症(頚椎捻挫)です。
後続車に追突されると「人間の首は頭部を支えきれなくなり首がガクンと大きくしなるような動き」になります。この衝撃が原因で首の中の神経や筋肉、さらに脊髄などにも影響を及ぼし後遺症が残ることがあります。
特に追突事故の場合は、衝突するという予測も準備もできないままいきなり後続車に追突されます。そうなると首のしなりが大きくなり「むち打ち症」も重度になる可能性が高くなります。
このむち打ち症の難しい問題が外傷と違ってその損傷がレントゲンに写らないことです。そのため、「保険会社は整骨院への通院を認めない」「医師が不適切な診断をしてしまう」、「後遺症等級が認定されない」などの様々な問題が起こります。
しかし、後遺症が残っている場合には保険会社に屈せずに「治療を継続する」、「後遺症を認めさせる」ことが必要です。被害者ご自身の力では交渉は難しいため弁護士のようなプロにサポートしてもらうことが求められます。
2.怪我や後遺症の損害賠償の考え方
いまも追突事故の被害を受けて怪我や後遺症で悩んでいる方も多いと思います。後遺症とは、事故による傷の治療は終わったものの、「手足を切断する」、「失明・難聴になる」などのように障害が残ることを言います。
人身事故の損害は「治療が終わって症状固定するまでの傷害による損害」と「症状固定後の後遺症による損害」と2つに分けられそれぞれ別に賠償額が算定されます。これは自賠責保険が傷害と後遺症の保険金を分けているためです。
後遺症の損害賠償にあたっては以下のような請求ができます。
また、どのような後遺障害がどのような等級に該当するかは法律で細かく決められています。
後遺障害等級のわかりやすい解説 - 後遺障害別等級表・労働能力喪失率
休業損害、逸失利益について
後遺症の治療費の算出においては、「入院費」、「治療費」、「雑費」などは、他の傷害事故と同じ扱いになります。しかし、休業損害の場合は治療が長期化するケースも多いため、これまでの裁判所の判例によると、その他の傷害事故とは別な扱いがなされます。
例えば、1週間に3日通院したら「仕事が全休扱いとなる」、1週間に1日の通院では「半休扱いとなる」など。これは逸失利益においても同様で、例えばむち打ち症で14級の後遺障害等級と認定された場合には、労働能力の喪失率を5%ととし、これを5~10年間請求できます。
気をつけたいのがここでも保険会社の対応です。むち打ち症の場合、長期間の治療が必要になるため、保険会社としては後遺障害等級を認定したくありません。そのため「レントゲンに写っていない…」、「痛みは無いだろう…」などと治療費の打ち切りを要求してくるケースが増えます。
後遺障害がある場合には、弁護士を立てて慰謝料(休業損害、逸失利益など)の計算から後遺障害等級認定のサポートまで受けることが適切な対応です。
覚えておきたい後遺障害の等級と賠償額
後遺障害の等級認定はこれが認められるかそうでないかで損害賠償額は大きく変わります。後遺障害の等級認定はそれほど損害賠償請求で重要なポイントです。では、実際に後遺症の等級認定はどのように進めればよいのでしょうか?
まずは医師の診断書が必要になります。かつては医師に診断書の作成を依頼すると「症状とともに後遺障害第何級第何号に該当する…」というような診断書を書いてくれることがありました。
しかし、現在では「◯◯の症状がある」としか書いてくれません。そのため、後遺障害等級の認定は保険会社あるいは裁判所で決められることになります。このように等級の認定に関しても保険会社が大きく関与するため、後遺障害の認定においては被害者が不利になる仕組みができあがっていると言えます。
あくまで保険会社は損害賠償額を少なくするために「等級認定をしたくない」、「できるだけ低い等級にしたい」というのが本音です。そのため、重度の後遺障害があるにも関わらず14級を言い渡されるなど、被害者と保険会社の間で等級認定のトラブルは絶えません。
もし後遺障害の認定に納得できないときには保険会社に対して異議申立てをすることができますが専門知識・経験・ノウハウなどが必要になります。
「後遺障害等級の認定」、「異議申立」という損害賠償において重要な局面では、弁護士に相談して適切な等級獲得を目指していくべきです。
慰謝料の算定
慰謝料とは、精神的に受けた被害に対する賠償のことです。事故による「顔の傷」や不自由になった手足は将来的にさまざまな不利益を受けることが考えられます。
後遺症の慰謝料の事案によりいろいろなケースがあり算定は非常に難しいため、「日弁連交通事故相談センター」の基準で以下の表のように定額化されています。この金額は強制保険から支払われる後遺症による逸失利益と慰謝料が含まれています。
等級 | 慰謝料額 |
---|---|
第1級 | 2,700 ~ 3,100万円 |
第2級 | 2,300 ~ 2,700万円 |
第3級 | 1,800 ~ 2,200万円 |
第4級 | 1,500 ~ 1,800万円 |
第5級 | 1,300 ~ 1,500万円 |
第6級 | 1,100 ~ 1,300万円 |
第7級 | 900 ~ 1,100万円 |
第8級 | 750 ~ 870万円 |
第9級 | 600 ~ 700万円 |
第10級 | 480 ~ 570万円 |
第11級 | 360 ~ 430万円 |
第12級 | 250 ~ 300万円 |
第13級 | 160 ~ 190万円 |
第14級 | 90 ~ 120万円 |
この慰謝料をめぐる解釈は保険会社と被害者の間で大きく食い違うことが多く裁判に発展することも少なくありません。後遺症の慰謝料で保険会社の言い分に納得できないときや裁判を検討している場合には弁護士に相談しましょう。
3.追突事故の保険会社との示談交渉
交通事故では、被害者と加害者の間で損害賠償についての示談交渉が必要になります。今日では示談代行付きの任意保険が売り出されており運転手の7割以上が加入していますので、追突事故の被害者の示談交渉相手は保険会社になります。
この保険会社との示談交渉は被害者にとって“精神的に大きな苦痛の種”と言われています。なぜなら保険会社は自社の利益を守るために被害者に支払う慰謝料・示談金などをできるだけ低く抑えようとします。そのため、会社の方針を忠実に守る保険会社の担当者は社内の示談交渉マニュアルどおりに厳しい交渉をおこないます。
保険や法律に詳しくない被害者が示談交渉の専門家とも言える保険会社の担当者と渡り合うのは難しいのが現実です。そのため、交渉は保険会社のペースで進むことが多くなり被害者は不当に低い賠償額で示談書にサインをしてしまうケースが後を絶ちません。
追突事故時の保険会社の対応パターン
追突事故の場合、交差点で信号待ちしているときにいきなり後続車が追突してきたというケースも珍しくありません。「こちらに過失は無いんだから保険会社の言い分なんか聞く必要はない」と被害者は考えがちです。
しかし、保険会社は示談額を少なくするためにいろいろな交渉テクニックを出してきます。特に追突事故の示談交渉で必ず争点になるのが「過失割合」です。被害者側に以下のような過失が無かったかを必ず突いてきますので注意が必要です。
- 急ブレーキで停車した
- ブレーキを踏むタイミングが遅かった
- 渋滞時にハザードランプの点灯がなかった、点灯が遅かった
- 信号が青に変わったのにすぐに発進しなかった
- 側道駐車時に非常灯を付けていなかった
- 道路に大きくはみ出して駐車していた
また、実際には被害者には過失とよべるものがなかったケースでも、さもあったように「話しをすり替える」、「水掛け論に持ち込む」なども保険会社のよくある示談テクニックです。
過失割合を認めても自賠責基準で支払おうとする
保険会社は過失割合を仮に100:0と認めたとしてもその損害賠償額を低額に抑えようとします。
損害賠償額を算出する基準は3つあります。
- 自賠責基準:強制保険のみ加入している車が事故を起こしたときに支払われる
- 任意保険基準:保険会社が独自に算定した基準
- 裁判所基準:裁判になった場合に認められると思われる基準
自賠責基準→任意保険基準→裁判所基準の順に賠償額が高額になります。
被害者は過失割合が有利になったので損害賠償額も増額できると考えますが、保険会社は自賠責基準をもとに算出するため、本来もらえる賠償額よりも不当に低い金額となるケースがよくあります。そうとは知らない被害者は「こんなものか」と示談してしまう結果になります。
保険会社が提示する示談金(損害賠償額)が妥当な金額かどうかは示談前に必ずチェックする必要があります。ここでも弁護士に相談して金額が妥当か?あるいは増額が可能か?を調べてもらうのが適切な対応方法です。
4.追突事故は弁護士に依頼しないと損する可能性が高い
追突事故は、被害者にとってはまさに災難で納得できない事故と言えます。「体が元に戻らない悔しさ」とともに「加害者や保険会社の誠意のない対応」に不満を感じる被害者も多いと思います。せめて損害賠償だけは適切に受け取るべきでしょう。
しかし、これまで書いてきたように保険会社は被害者に支払う損害賠償額を低額にしたいのです。そのために、示談交渉の研修を受けた担当者を交渉にあたらせます。相手が示談のプロである保険会社の担当者なら被害者もプロに依頼するのが正しい対応です。そのプロが「弁護士」です。
交通事故に強い弁護士は、「法律」、「事故」、「保険」、「医療」についての知識を持つ交渉ごとの専門家なのです。
弁護士が保険会社の過失割合の主張を正す
保険会社は被害者に過失が見当たらない追突事故であっても過失割合をそのまま100:0として認めることは稀です。何らかの理由をつけて保険会社が独自に算定した過失割合を主張してきます。保険会社が提示する過失割合の問題点を論理的に証明できなければそのまま泣き寝入りするかたちになります。
その場合、弁護士なら実況見分調書を取り寄せての調査、現場調査から目撃者の証言などをもとに保険会社が提示する過失割合の不備をただします。
弁護士の後遺障害等級認定のサポートと異議申し立て
等級認定では医師の診断書に書かれた内容が等級に大きく左右します。しかし、医師の中には後遺障害等級について詳しくない人も多く保険会社の意向に沿って診断書が作成されるケースがあります。
弁護士がサポートに入れば後遺障害等級の獲得のために日頃から医師に対して「治療の必要性を説明」、「診断書作成のアドバイス」など各種の働きかけをおこないます。そして等級認定が保険会社のペースで進まないように適切な対応をしてくれます。
また、保険会社の提示する後遺障害等級認定に納得できないという被害者からの相談には、保険会社に対して「異議申し立て」の手続きをとります。この異議申立書に、その理由となる医師の「診察所見」、「検査結果」などを合わせて提出します。
異議申立では、後遺障害によって取り揃える書類や方法なども変わってきます。経験豊富な弁護士なら適切にこの手続を進めて等級認定されるようにサポートしてくれます。
裁判所基準での損害賠償請求へ
損害賠償の基準は3つあると説明しましたが自賠責基準と裁判所基準ではその賠償額が大きく変わります。裁判所基準になれば2倍、3倍に増額することもあります。
弁護士が介入して交通事故事件の被害者救済をする場合には、裁判所基準で損害賠償が受けられるように動いてくれます。弁護士費用が心配という声も聞かれますが「損害賠償額が大きく増額」することによって費用は十分回収できます。
弁護士費用特約を使えば0円で依頼できる
被害者本人や同居する家族が加入する自動車保険に「弁護士費用特約」というものが付いていれば、交通事故で被害者になったときに実質0円で弁護士に依頼することができます。
現在ではほとんどの弁護士が弁護士費用特約に対応していますので使わないと損です。まずは加入する自動車保険の損害保険会社に確認してみましょう。
弁護士費用特約とは?交通事故の弁護士費用が0円になる自動車保険
追突事故の慰謝料・示談金の増額のためのまとめ
追突事故の被害に遭われたご本人、家族の方の心情をお察しします。
しかし、これから前向きに進んでいくためには保険会社との示談の問題を適切に解決しなくてはなりません。その際には、「治すべきはしっかり治し」「取れるものはしっかり取る」という考え方でのぞむ必要があります。
後遺症の治療をしっかりおこない、また保険会社からは慰謝料含めた示談金を適正に請求したいものです。