交通事故で体に残る後遺障害は1つとは限りません。1回の事故で2つ以上の後遺障害が残った場合は、自賠責保険において後遺障害は被害者1人に1つの等級を格付けするという決まりがあります。
このため、交通事故で異なる後遺障害が複数ある場合は「併合」という方法を用いて1つの等級を格付けすることになりますが、併合には細かな規則が設けられています。「併合等級」は後遺症が複数ある人なら必ず知っておくべき知識です。
そこでこの記事では、後遺障害が複数ある場合の併合等級と慰謝料について事例を交えて解説していきます。
事故被害を受けて後遺障害が複数ある場合は等級・慰謝料はどうなるのか?
後遺障害とは、ひととおりの治療が終わり医師から症状固定と判断された時点で「医学上、これ以上回復が見込めない」と判断された身体に残る障害のことです。
1回の事故で後遺障害が複数ある場合は、原則として後遺障害等級認定の併合等級の仕組みにしたがって決定されます。事故の後遺障害の事例を交えて解説していきます。
併合等級の仕組み(ルール)
後遺障害における併合等級のルールには、異なる複数の後遺障害が2つ以上ある場合、重たい後遺障害等級が基準となり、等級がさらに上がることが基本です。
併合等級の仕組みは、自賠責法施行令別表第第二に該当する後遺障害が複数存在する場合は、次のように取り扱うことが定められています。
- 第5級以上に該当する後遺障害が2つ以上ある場合は、重いほうの等級を3級繰り上げる
- 第8級以上に該当する後遺障害が2つ以上ある場合は、重いほうの等級を2級繰り上げる
- 第13級以上に該当する後遺障害が2つ以上ある場合は、重いほうの等級を1級繰り上げる
- その他の場合、重いほうの等級を採用する
例えば、第5級と第7級がある場合は、上記ルール2に該当し、重いほうの第5級から2級繰り上げられることになり第3級が認定されることになります。
ただし、併合等級は原則として上記のルールに従って等級が上がることになりますが、併合等級には例外も定められています。
後遺障害に相当する症状も対象になる
自賠責後遺障害等級備考六において、「各等級の後遺障害に該当しない場合であっても、各等級の後遺障害に相当するものは、当該等級の後遺障害とする」と定められています。
このため、たとえ後遺障害の各等級に該当しない場合でも、「相当(等級準用)」のルールによって後遺障害等級が「相当級」として認定されることもあります。
例えば、後遺障害等級の認定基準に視覚脱失や聴覚脱失に関しては、細かい基準が設けられていますが、嗅覚脱失や味覚脱失に関してはほとんど定められていません。嗅覚脱失や味覚脱失は神経症状に近い障害として扱われていますので、後遺症の程度に応じて第12級相当、第14級相当として扱われることになります。
もちろん相当級が認定された場合も、他に後遺障害がある場合は併合等級のルールにしたがって等級が上がることになります。
組み合わせ等級が定められているもの
原則として、併合は異なる系列の後遺障害がある場合に行われます。上肢、下肢、手指、足指、眼瞼は左右が異なる系列とされていますが、同一の系列に後遺障害が残った場合は、併合ではなく「組み合わせ等級」として等級表に定められた該当する等級が認定されることになります。
例えば、上肢を肘関節以上で失った(第4級4号)場合に、もう一方の上肢も肘関節以上で失った(第4級4号)場合、つまり両方の腕の肘関節から先を切断した場合は、第1級3号の両上肢を肘関節以上で失ったものが該当することになります。
序列を乱す結果になる場合
併合等級のルールにしたがって等級を繰り上げることで結果として序列を乱すことになる場合は、障害の序列にしたがって等級を認定することになります。
片方の上肢を肘関節以上で失い(第4級4号)、もう一方の上肢を手関節以上で失った(第5号4級)場合に、併合等級のルールにしたがって等級を繰り上げると、重たいほうの4級から3等級繰り上げられて第1級が認定されることになります。
しかしながら、上記の組み合わせ等級の例で紹介した両上肢を肘関節以上で失った場合の第1級と比べると障害の程度は軽いため、序列的に1級低い併合2級となります。
併合・繰り上げできないケースもある
後遺障害が2つ以上存在する場合は、基本的に各等級に応じて1~3級繰り上げられることになりますが、併合しても等級が繰り上がらないケースもあります。
併合等級のルールにあるように第13級以上に該当する後遺障害が2つ以上ある場合は、重い方の等級から繰り上がることになるのですが、第13級以下、つまり第14級が2つ以上ある場合は、第14級が採用されることになります。たとえ第14級が3つあるケースで併合しても等級が繰り上げされることはありません。
第13級と第14級の2つの後遺障害がある場合も、上記ルール3に示されている、第13級以上に該当する後遺障害が2つ以上ある、には該当しませんので、併合しても重いほうの第13級のままとういことになります。
つまり、第13級以上の後遺障害が2つ(例:第13級と第13級)以上存在する場合は、等級は上がりますが、第13級と第14級の併合あるいは第14級が2つ以上ある場合に併合しても等級は上がらないということです。(上記ルール4)
この他にも、併合できないケースには次のようなものがあります。
複数の系列で評価が可能なもの
もし大腿骨に変形を残し第12級が認定された場合に、下肢短縮の長さが短縮し第13級と評価する場合は、複数の系列で評価が可能なものとされるため、併合は行われず重い等級の第12級が認定されます。
派生関係がある後遺障害
例えば、上肢に偽関節を残すものとして第8級が認定された場合に、同じ部位に頑固な神経症状12級を残すと評価された場合は、神経症状は派生関係にあるため、併合は行われず重たい等級の第8級が認定されます。
介護が必要な等級は併合等級の適応外
併合等級のルールには、介護が必要な後遺障害等級第一の第1級(常に介護が必要)と第2級(随時介護が必要)が同時に発症することは決してないことから、要介護第1級と要介護第2級との併合は適応外となります。
併合されると慰謝料はどう変わる?
併合されると慰謝料は併合のルールにしたがって認定された等級の後遺症慰謝料が支払われることになります。
以下では2020/04/01に改定された基準を用いて計算しています。
仮に、事故によって両目の視力が0.06以下(第4級1号)になり、両足の足指を全て失った(第5級8号)場合、第4級から3等級繰り上がり、第1級に認定されることになります。慰謝料は重たい等級の第4級1,670万円から1,130万円アップの第1級2,800万円が支払われることになります。
さらに、第1級の場合は労働能力喪失率が100%となりますので、例として40歳・年収500万円の方が併合で第1級に認定されると、500万円(年収)×100%(労働能力喪失率)×18.327(ライプニッツ係数)=9,163.5万円が逸失利益として認められることになりますので、後遺障害慰謝料と逸失利益だけでも計1億1963.5万円が支払われます。
このほかには、第5級と第5級の場合は、併合2級(2,370万円:労働能力喪失率100%)、第5級と第8級の場合は併合3級(1,990万円:労働能力喪失率100%)第5級と第13級の場合は併合4級(1,670万円:労働能力喪失率92%)第8級と第8級の場合は併合6級(1,180万円:労働能力喪失率67%)というふうに、併合されると多くのケースで慰謝料が数千万円単位で増額されることになります。
併合は弁護士と医師の連携が非常に重要なポイントになる
言うまでもありませんが、併合は慰謝料・等級認定にも大きく関係します。しかし、後遺障害の併合は明確なルールが設けられている一方、後遺障害は被害者それぞれに独自の症状があります。
適切な後遺障害等級を認定へと導くためには自賠責保険調査事務所(損害保険料率算出機構)の基準を満たす必要があります。そのため2つ以上の後遺症が残ることを証明するためには医師医学的所見が非常に重要なポイントになります。
併合によって新たな等級を認定してもらうためには、医師への働きかけができる医療に強い弁護士にできるだけ早期に相談することが有効です。後遺障害が2つ以上残ることが疑われるときは、医師との連携体制を重視している弁護士に相談して、最適なサポートを受けませんか