この記事でわかること
- 交通事故で足を切断したときの慰謝料の相場がわかる
- 足の切断で後遺障害等級の認定を受ける方法がわかる
- 交通事故による足の切断で受け取れる賠償金の種類がわかる
- 足の切断で適切な賠償金を受け取るためのポイントがわかる
交通事故に遭ったときの状況によっては、足(下肢)を切断してしまうこともあります。
足を失ってしまうと、今後の仕事や日常生活に多大な影響が出るので、被害者ご本人はもちろん、ご家族にとってもまた耐えがたい苦しみを受けることでしょう。
これからの人生を前向きに歩んでいくためには、治療とリハビリをしっかりと行うとともに、後遺障害等級の認定を適正に受けて、十分な慰謝料を受け取ることが大切です。そのためには、被害者側が知っておくべきポイントがいくつかあります。
ここでは、交通事故で足を切断したときの慰謝料の相場をはじめとして、適正な賠償金を受け取るためのポイントを分かりやすく解説します。
交通事故で足の切断に至るケース
交通事故の衝撃によって直接、足を切断してしまうことはそれほど多いケースではありません。
しかし、足の損傷が激しいために修復が難しい場合や、治療経過が思わしくないときには、生命を守るために足の切断を余儀なくされることがあります。
交通事故で足の切断を余儀なくされる主なケースは、以下のような場合です。
粉砕骨折
粉砕骨折とは、骨が2つではなく3つ以上に分かれる骨折のことで、分かりやすくいうと骨が粉々に砕けた状態のことです。
交通事故などで強い衝撃を受けると、粉砕骨折を生じることがあります。骨密度が低下している高齢者が事故に遭った場合は、特に粉砕骨折が生じがちです。
バラバラになった骨を手術で元通りに繋げて固定するという治療が可能な場合もありますが、それが困難なほど粉々に砕けている場合は切断しなければなりません。
開放骨折
開放骨折とは、折れた骨が皮膚を突き破って露出してしまった骨折のことです。
骨が無防備な状態で外気に触れてしまうと、細菌が付着して骨髄炎などの感染症を引き起こすことがあります。骨髄炎が慢性化すると治療が困難となる場合が多く、その場合は切断を余儀なくされることもあります。
感染症が起きなかったとしても、開放骨折の治療後には血流障害が生じやすく、周囲の組織が壊死した場合には、最終的に切断を選択せざるを得ないこともあります。
動脈損傷
交通事故でひざやその周囲を骨折したときに、ひざの後ろ側を通る膝窩動脈(しっかどうみゃく)を損傷してしまうことがあります。
早期に適切な治療が行われれば治りますが、動脈損傷はX線検査など整形外科における一般的な検査では判明しないことも少なくありません。
発見が遅れると、ひざから下が血流障害のために壊死してしまい、最終的に切断を余儀なくされることがあります。
交通事故で足を切断したときに受け取れる慰謝料の種類
交通事故で足を切断するという被害を受けたときは、当然ながら加害者へ慰謝料を請求できます。
慰謝料とは、相手の加害行為によって受けた精神的苦痛を金銭に換算した賠償金のことです。数ある賠償金の費目のひとつであり、治療費や休業損害等とは別に請求が可能です。
慰謝料の中にもいくつかの種類があり、足を切断した場合には次の3種類の慰謝料を請求できる可能性があります。
・入通院慰謝料
・後遺障害慰謝料
・近親者の慰謝料
以下で、それぞれの内容をみていきましょう。
入通院慰謝料
入通院慰謝料とは、交通事故で負ったケガによる痛み・苦しみや、その治療のために入通院を余儀なくされることによる精神的苦痛に対して支払われる賠償金のことです。
人の精神的苦痛を個別具体的に測ることは難しいため、入通院期間の長短に応じて慰謝料額が算出されます。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、交通事故によるケガが完治せずに後遺障害が残った場合に、将来の仕事や日常生活に支障をきたすことによる精神的苦痛に対して支払われる賠償金のことです。
後遺障害慰謝料を請求するためには、後遺障害等級の認定を受ける必要があります。後遺症が残ったすべてのケースで後遺障害慰謝料を受け取れるわけではないことに注意が必要です。
近親者の慰謝料
交通事故で重大な被害を受けた場合には、被害者本人だけでなく、その父母・配偶者・子などの近親者にも固有の慰謝料が認められることがあります。
法律の規定で認められているのは死亡事故の場合のみですが、判例上、死亡事故に匹敵するような重大な障害を負った場合にも、近親者固有の慰謝料請求権が認められています。
足を切断した場合、程度によっては重度の後遺障害等級に認定されることがあります。その場合には、近親者固有の慰謝料が認められる可能性があります。
交通事故による足の切断で請求できる慰謝料の相場
次に、交通事故で足を切断した場合に請求できる慰謝料額について、3種類の慰謝料ごとに相場をご紹介します。
入通院慰謝料
足を切断する場合の治療期間は、ケースによってさまざまです。最初から足を切断した場合は1ヶ月程度で終了することもありますが、長期間の治療の末に切断術に踏み切ることもあります。また、治療後のリハビリに長期間を要することもあります。
ここでは、分かりやすいように入通院期間が1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月の3つのケースで慰謝料額を試算してみましょう。
なお、慰謝料の算定基準には自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準の3種類があり、自賠責基準が最も低額となり、弁護士基準が最も高額となります。以下で、各基準による慰謝料の計算例をまとめていきます。
入通院期間1ヶ月(30日)のケース
入院15日、通院15日で、通院期間中は3日に1回の頻度で通院したと仮定すると、慰謝料額は以下のようになります。
算定基準 | 自賠責保険基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|---|
入通院慰謝料 | 12万9,000円 | 18万9,000円 | 40万5,000円 |
なお、任意保険基準は各保険会社が独自に定めているものであって非公開のため、ここでは推定値を記載しています。
入通院期間3ヶ月(90日)のケース
入院2ヶ月、通院1ヶ月で、通院期間中は3日に1回の頻度で通院したと仮定すると、慰謝料額は以下のようになります。
算定基準 | 自賠責保険基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|---|
入通院慰謝料 | 38万7,000円 | 63万円 | 122万円 |
ここでも、任意保険基準の金額は推定値です。
入通院期間6ヶ月のケース
入院4ヶ月、通院2ヶ月で、通院期間中は3日に1回の頻度で通院したと仮定すると、慰謝料額は以下のようになります。
算定基準 | 自賠責保険基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|---|
入通院慰謝料 | 77万4,000円 | 112万2,000円 | 210万円 |
ここでも、任意保険基準の金額は推定値です。
以上の金額のうち、事実上の相場といえるのは任意保険基準による金額です。交通事故の被害者の大半は任意保険会社と示談をして慰謝料を受け取っているからです。
しかし、法的に正当な根拠がある算定基準は弁護士基準のみです。弁護士基準で慰謝料を請求するには、裁判をするか、または弁護士に示談交渉を依頼する必要があります。
後遺障害慰謝料
足の切断で認定を受けられる可能性がある後遺障害等級は、以下のとおりです。
後遺障害等級 | 後遺障害の内容 |
---|---|
第1級5号 | 両下肢をひざ関節以上で失ったもの |
第2級4号 | 両下肢を足関節以上で失ったもの |
第4級5号 | 一下肢をひざ関節以上で失ったもの |
第4級7号 | 両足をリスフラン関節以上で失ったもの |
第5級5号 | 一下肢を足関節以上で失ったもの |
第7級8号 | 一足をリスフラン関節以上で失ったもの |
ここでいう「足関節」とは、足首のことです。「リスフラン関節」足の甲の真ん中あたりにある関節のことで、足首と足指の間にあります。
上記の後遺障害等級に対する後遺障害慰謝料の額は、以下のとおり定められています。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料の額 | ||
---|---|---|---|
自賠責基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準 | |
第1級5号 | 1,150万円(1,100万円) | 1,600万円 | 2,800万円 |
第2級4号 | 998万円(958万円) | 1,300万円 | 2,370万円 |
第4級5号 | 737万円(712万円) | 900万円 | 1,670万円 |
第4級7号 | 737万円(712万円) | 900万円 | 1,670万円 |
第5級5号 | 618万円(599万円) | 750万円 | 1,400万円 |
第7級8号 | 419万円(409万円) | 500万円 | 1,000万円 |
自賠責基準の括弧内は、2020年3月31日以前に発生した事故の場合の金額です。また、任意保険基準の金額は推定値です。
このように、後遺障害慰謝料の金額は等級によって大幅に異なるので、後遺障害等級の任意邸を適切に受けることが非常に重要です。
近親者の慰謝料
近親者の慰謝料については、以下で死亡事故の場合の算定基準をご紹介します。足を切断した事故の場合は、後遺障害等級に応じて、死亡事故の場合の慰謝料額から減額される可能性があります。
まず、自賠責基準では、以下のように慰謝料額定められています。
請求権者 | 慰謝料額 | |
---|---|---|
近親者(遺族) | 請求権者1人の場合 | 550万円 |
請求権者2人の場合 | 650万円 | |
請求権者3人の場合 | 750万円 |
被害者に被扶養者がいる場合は、上記金額に200万円が加算されます。
任意保険基準と弁護士基準では、被害者本人に対する慰謝料と近親者の慰謝料を合わせて、以下のようになっています。
被害者の立場 | 任意保険基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
一家の支柱 | 1,500万円~2,000万円 | 2,800万円 |
母親・配偶者 | 1,500万円~2,000万円 | 2,400万円 |
その他 | 1,200万円~1,500万円 | 2,000万円~2,200万円 |
理屈上は、上記金額から被害者本人の入通院慰謝料と後遺障害慰謝料と差し引いたものが近親者固有の慰謝料となるはずです。しかし、そうすると近親者の慰謝料が残らないこともあります。
交通事故で被害者が重度の後遺障害を負った場合、近親者には介護などで死亡事故の場合よりも重い負担がかかるケースが少なくありません。
そのため、上記の慰謝料とは別に、近親者固有の慰謝料として数百万円を認めた裁判例が多数あります。
交通事故で足を切断したときに請求できる慰謝料以外の賠償金
交通事故でケガをしたときは、慰謝料の他にも治療費、入院雑費、付添看護費、通院交通費、休業損害など、さまざまな賠償金を請求できます。
足を切断した場合は、生涯にわたって仕事や日常生活に多大な支障をきたすことが明らかであるため、以下のような将来の賠償金も請求できる可能性があります。
逸失利益
逸失利益とは、本来なら得られるはずなのに事故に遭ったために得られなくなるであろう将来の利益のことです。後遺障害等級の認定を受けた場合に請求できます。
金額は、後遺障害等級や年齢、事故前の収入などに応じて、以下の計算式で算出されます。
基礎収入×労働能力喪失率×労働喪失期間に対応するライプニッツ係数=逸失利益
例えば、片足をひざより下で切断した被害者が、症状固定時40歳、事故前の年収が500万円であったとすると、逸失利益は7,239万1,650万円となります。
義足費用
足を切断しても、寝たきりとならない以上は義足が必要となります。義足にかかる費用についても、必要勝つ相当な範囲で賠償請求できます。ただし、必要以上に高価な義足を購入した場合は、一部が自己負担とされる可能性もあります。
また、義足はひとつのものを永久に使えるわけではなく、定期的なメンテナンスや買い換えが必要です。そのための費用も賠償請求できます。
ただし、将来必要となった都度お金をもらえるのではなく、示談の際に将来必要と考えられる金額が見積もられて、一括で支払われます。
車椅子費用
義足と同様に車椅子の購入にかかる費用についても、賠償請求できます。将来のメンテナンスや買い替えにかかる費用が請求できることも、義足の場合と同様です。
住宅・車両の改造費用
足を切断した場合、義足や車椅子でも家の中を移動したり、車に乗り降りできるようにするために、住宅や車両を改造しなければならないこともあります。その場合の住宅改造費・車両改造費についても、賠償請求できます。
ただし、加害者に請求できるのは必要勝つ相当な範囲に限られるので、必要以上に大規模な改造をすると費用の一部が自己負担となる可能性があります。
将来の介護費
被害者が自力で起床や排便など日常生活に必要な動作を行えなくなった場合は、将来の介護費についても賠償請求できる可能性があります。重大な交通事故で足を切断するとともに、頭部を損傷して意識障害が残ったケースで請求が認められることが多いです。
ただ、保険会社は介護の必要性を争ってきたり、必要性が認められる場合でも1日あたりの金額を不当に低く見積もることが多い傾向にあります。
したがって、将来の介護費を請求する場合は、実際に行っている介護の内容やその必要性を立証することが重要となります。
足の切断で適切な賠償を受けるためのポイント
交通事故で足の切断という取り返しのつかない被害を受けた場合は、十分な賠償金を受け取ることが大切です。
適切な慰謝料を請求するためには、以下のポイントに注意しましょう。
後遺障害等級の認定を受ける
後遺障害慰謝料を請求するためには、損害保険料率機構というところに申請して、後遺障害等級の認定を受けなければなりません。
足を切断した場合は、欠損した部分が明確なので、後遺障害等級の認定で争いになることは少ないといえます。
そのため、申請手続きは保険会社に任せても構いませんが、念のため事前に弁護士に相談すると安心できます。
弁護士基準で慰謝料を請求する
弁護士基準で慰謝料を請求するためには、通常は裁判をする必要があります。しかし、弁護士に損害賠償請求を依頼した場合には、示談でも弁護士基準で算出した慰謝料を受け取れる可能性があります。
なぜなら、保険会社も弁護士との示談交渉が決裂すれば裁判を起こされる可能性が高いと分かっているからです。
弁護士に依頼するだけで慰謝料を大幅に増額できる可能性があるのですから、保険会社と示談する前に弁護士に相談してみることをおすすめします。
将来の損害についても賠償請求する
被害者が足を切断したケースでは、保険会社が支払うべき賠償金の額も大きくなるので、支払い額を少しでも抑えようとしてきます。
慰謝料額や逸失利益を低めに提示してくる他にも、義足や車椅子の費用をはじめとする将来の損害については否認したり、認めたとしても極めて低い金額を提示してくることがあります。
保険会社の言い分を鵜呑みにしていると損をする可能性が高いので、被害者側で何を請求できるのかを知り、適切な金額を請求することが重要となってきます。
交通事故で足を切断したときの慰謝料請求は弁護士に相談を
交通事故で足を切断して仕事や日常生活に多大な支障をきたしている中で、被害者ご本人やご家族が損害賠償について調べ、保険会社と交渉するのは難しいことも多いでしょう。
分からないことや困ったことがあるときは、弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士が被害者の代理人として保険会社との交渉を進めてくれるので、被害者ご本人やご家族はリハビリや仕事、家事、介護などに専念することができます。
損害賠償請求は弁護士が事案を精査した上で、漏れなく行ってくれます。慰謝料は弁護士基準で請求してくれますし、必要に応じて後遺障害等級認定の申請手続きもサポートしてくれます。
結果として、保険会社の提示額よりも賠償金の大幅な増額が期待できます。弁護士の力を借りて、適切な賠償金の獲得を目指しましょう。