高速道路を逆走する事件は、事故になっていないものも含めて全国各地で毎日のように発生しています。
普通では考えられない「逆走」はなぜ起きてしまうのでしょうか。
公益財団法人交通事故総合分析センター(通称ITARADA)では、高速道路上の逆走事故について調査を行っています。
【参考】危険な高速道路の逆走事故 ITARDA
それによると、高速道路の逆走事故は平成2年から平成12年までの10年間に4倍に増加しており、その致死率は高速道路上の事故全体の致死率が2.0%に対してなんと11.8%という高い値になっています。
逆走は当然、正しく走っている車との正面衝突の危険が高い状態です。
モータージャーナリストの菰田潔さんもJAMAGAZINEでこう語っています。
昨年のある日、高速道路を走っていたら電光表示板に2個の警告灯の点滅とともに「逆走車あり注意」という表示が出た。そのときは出会うことはなかったが、あとから聞いたら、高齢者が運転するクルマがどういうわけか本線を逆走してしまったようだ。
理由はどうであれ、高速道路で「逆走車あり」という表示を見たら、なるべく左側の車線を走るべきだ。その逆走車は左側通行のつもりで走るから、こちらから見ると右側を走ってくるはずだからだ。もし追い越し車線を走っていて先行車が急に左車線に移ったと思ったら目の前に対向車がいる、という状況では正面衝突は免れないだろう。お互いに時速100キロで走っていたとしたら、56メートル先に対向車が見えた1秒後にはクラッシュしているのだから。・・・高齢ドライバーにみる交通事故とその原因、そして防止策 JAMA
どのような状況で逆走事故は起きるのか?
通常では考えられない「高速道路の逆走」はどのようにして起こるのでしょうか?
場所状況別の割合はこのようになっています。
インターチェンジ(IC)とジャンクション(JCT)(約40%)
分岐が複雑で道に迷ったり、間違えた道を戻ろうとしてしまったり、進入禁止の道へ侵入してしまったりという場合に逆走になってしまうようです。焦る気持ちはよくわかります。
サービスエリア(SA)とパーキングエリア(PA)(約30%)
SAやPAは入口も出口も一方通行ですが、出口ではなく入口から高速道路に出てしまい結果逆走してしまう車が多いようです。高齢者以外にも、仮眠後のトラックの運転手などにも多いパターンのようです。
本線(約20%)
本線上での逆走は「道の真ん中でUターン」することによって起きてしまいます。追い越し車線を対向車線と間違えて走行してしまうケースが多そうです。
高速道路で逆走事故を起こす年齢層
高速道路上で逆走して事故を起こすのは高齢者というイメージを持つ方も多いと思います。
実は調査をみると、20代前半、30歳前後、50歳前後、65歳以降の高齢者とそれぞれの年齢で逆走事故はまんべんなく起きています。
事故の件数だけ見ると、高齢者とその他の年齢では件数は大きくは変わりませんが、高速道路上で起きる全死傷事故の割合と比較すると見え方が変わってきます。
高速道路上で起きる全死傷事故の内、高齢者が起こしたものは全体の約4%です。
ですが、ここから逆走事故のみを取り出してみると、その中の高齢者の割合は約30%にまで跳ね上がってしまうのです。
では、なぜこのように高齢者の高速道路の逆走事故は多いのでしょうか?
高齢者が高速道路を逆走してしまう理由
交通事故総合分析センター(ITARADA)では逆走事故を起こした理由も調査しています。
それによると、高齢者が事故を起こす理由のほぼ全てが「何らかの疾患(痴呆等)のため」、「高速道路の利用方法が分からなかった」に当てはまっていました。
つまり、「認知症」、「知識不足」、「判断力不足」が高速道路を逆走してしまう原因なのです。
認知症や高速道路の正しい知識を持ち合わせない高齢者ドライバー、言い換えれば「運転する能力の低い高齢者ドライバー」はなぜ多いのでしょうか?
日本では、このような危険を減らすために、運転に不安を感じるようになった際に自主的に運転免許証を返納できる制度を設けています。
免許を返納すると、免許証に似せた「運転経歴証明書」が交付され、身分証明書や各種サービスの割引に使えるようになっています。
さらに認知症が明らかな時は、本人の意思とは関係なく運転免許証の免許取り消しも可能になっています。
しかし、なかなか運転免許証の返納が進まないのは高齢者ドライバーの「プライド」によるところが大きいのではないでしょうか。
長年運転してきて事故を起こさなかった自信とプライドがあるがゆえに、周りから「運転できない、免許を返した方がいい」と助言を受けても、素直に受け入れることができない方が多いように思います。
危ない!と感じたときに高齢者に運転をやめてもらう方法
運転の腕に自信があってプライドが高い人に「運転をやめろ」「免許を返せ」と言っても間違いなく言うことを聞きませんし、プライドを傷つけずにうまく手放させる方法もないに等しいと思います。
とはいえ危険な状態を野放しにすることもできませんね。
ここで第一に考えなければならないのは「人の命」です。免許を返納する本人のプライドも、喧嘩によって家族に入るヒビも「人の命」には変えられません。
説明してもわかってもらえないときの最終手段として
- 車のキーを隠してしまう
- 車自体を売ってしまう
- 家族は絶対に同乗しない
- 目上の人(医師などの先生と呼ばれる人)に「運転はやめた方がいい」と言ってもらう
などの方法があります。
まとめ
高齢者講習へ行かせるという方法もありますが、本人に「高齢者」や「運転できない」という意識がない場合は逆効果になってしまうこともあります。
自分は高速道路を逆走してしまうかもしれない、と思う人はまず高速道路には乗りませんし、自ら車の運転もやめるはずです。
高速道路で逆走事故を起こしてしまった人の多くは「自分は大丈夫」と思っていたのではないでしょうか?
もし、周囲に高齢者で運転している人がいたら認知症の有無や運転技術を確認してみてください。
少しでも危ないと感じたときはぜひ「運転させない」方向へ動き出しましょう。