入院や通院で仕事を休んだ分の給与を補償する制度として、「休業損害」や「休業補償」というものがあります。基本的にはこの2つの言葉は、同じ制度を指している場合がほとんどです。ただし、休業補償が「休業給付」や「休業補償給付」の意味で使われるとしたら、「休業損害」とはまったく違ったものを指すことになります。
この記事では、「休業損害」と「休業給付・休業補償給付」にはどのような違いがあるのか、わかりやすく解説していきます。
休業損害と休業補償は違うもの?
「休業損害」と「休業補償」はどちらも「交通事故などでケガをして休業する人の収入を補償する制度」を意味します。この2つの違いは「説明の仕方の違い」である場合がほとんどです。
保険会社や法律家などが一般の人に説明する際、「損害」よりも「補償(欠けたものを補うこと)」という言葉の方がわかりやすいと考え、はっきり区別せずに使うことが多くなっているのです。
しかし、「休業補償」が「休業給付」や「休業補償給付」の意味で使われる場合には、「休業損害」とは明確に異なったものになります。
「自賠責保険による補償」と「労災保険による補償」
休業損害とは、「自賠責保険による補償」のことを指します。一方、休業給付・休業補償給付は、「労災保険による補償」を指します。
【休業損害と休業給付・休業補償給付の違い】
- 休業損害⇒国土交通省の管理する「自賠責保険」による補償
- 休業給付・休業補償給付⇒厚生労働省の管理する「労災保険」による補償
以下では、「自賠責による休業損害」と「労災保険による休業給付・休業補償給付」のそれぞれの基本的な知識を確認した後で、両者の違いについて、詳しく解説していきます。
自賠責保険による休業損害とは
休業損害とは、交通事故に遭わなければ「得られたはずの収入」を自賠責保険が補償するものです。「休業損害」の金額を求める計算式は、以下のようになります。
休業損害=「5,700円/日(~19,000円/日)」×「休業日数」
自賠責保険では、原則として「1日5,700円」に「休業した日数」をかけたものが「休業損害」として被害者に支払われます。ただし、1日の収入が「5,700円を超える」人の場合は、その人に応じた金額(限度額1日19,000円)を請求することができます(自動車損害賠償保障法施行令第3条の2)。
2020/04/01に基準が改定され日額6,100円になりました。この基準は4月以降に発生した事故に適応されます。
自賠責保険には限度額がある
自賠責保険は「最低限の補償」を目的としているため、被害者1名に対して120万円(後遺障害慰謝料を除く)という限度額を定めています。これは、休業損害に対して請求できる限度額ではなく、「入通院費や慰謝料、通院費などをすべての請求額」が120万円ということになります。
任意保険と合わせても限度額は120万円
もし加害者が任意保険に入っていたとしても、120万円以上を請求することできません。なぜなら、任意保険は「自賠責保険を補うこと」が目的であるからです。そのため、自賠責保険の請求で120万円を超えてしまった場合、任意保険には請求できません。
自賠責保険以外の算定基準
休業損害を算定するための基準には、「自賠責保険基準」以外にも「任意保険基準」「弁護士(裁判)基準」の3つがあり、それぞれ請求できる金額は異なります。特に、「弁護士(裁判)基準」を採用することで、「多くの金額」を請求できる可能性が高まります。詳しくは、下記の記事をご覧ください。
労災保険による休業給付・休業補償給付とは
労災保険による休業給付(休業補償給付)は、通勤中や勤務中の交通事故などが原因で働けなくなった人の給与を補償するものです。
労災保険では、
●通勤中の事故による休業は「休業給付」
●勤務中の事故による休業は「休業補償給付」
と定めています。通勤中や勤務中に交通事故の後、労基署から労災が認められれば、休業してから「4日目」には支給されます。
また、以下の条件を満たせば、休業給付(休業補償給付)とは別に、「休業特別支給金」が支給されます。
- 業務上の事由、または通勤による負傷や疾病による療養のため
- 労働することができないため
- 賃金を受けていないこと
「休業給付(休業補償給付)」と「休業特別支給金」の計算方法
休業給付(休業補償給付)の場合、事故前の直近3か月から「1日あたりの収入」を求めることから始めます。ただし、労災保険では「給与全額」を補償してくれません。
休業給付(休業補償給付)=「1日あたりの収入の60%」×「休業日数」
休業特別支給金=「1日あたりの収入の20%」×「休業日数」
休業給付と合わせたとしても、その人の「収入の80%」しか受け取ることができません。
「自賠責保険」と「労災保険」の二重取りはできない
通勤中や勤務中に交通事故に遭ってしまった場合、「自賠責保険による補償(休業損害)」と「労災保険による補償(休業給付・休業補償給付)」の両方の対象となりますが、二重取りはできません。なぜなら、「休業損害」と「休業給付(休業補償給付)」は、「休業中の労働者の収入を補償する」という同じ性質のものだからです。
ただし、どちらに請求したとしても、労災保険の「休業特別支給金」は受け取ることが可能です。これは、「労働福祉の増進を図るために必要」だと考えられているためです。
どちらに請求するべきなのか
通勤中や勤務中に交通事故に遭った場合、「自賠責保険(休業損害)」と「労災保険(休業給付・休業補償給付)」のどちらに請求するべきか迷う方も多いでしょう。
労災保険を管理する厚生労働省は、「先に自賠責保険に請求すること」を促していますが、これに拘束力はありません。そのため、両方のメリット・デメリットを知ったうえで、被害者の方が「得」をする方を選択するべきです。
休業損害のメリット・デメリット
休業損害のメリットは、法律で加入が義務付けられた事故被害者を救済するための制度であり、7割以上の重大な過失がない限り過失相殺されることはありません。
自賠責保険では、その人の「1日あたりの収入」が100%支給される可能性が高くなります。さらに、収入がない「専業主婦・主夫」であったとしても一定額の補償が認められています。
しかし、デメリットとして、「120万円の限度額が設定されていること」があげられます。この限度額は、休業損害だけでなく「治療費や慰謝料など全ての賠償額を含めた金額」です。そのため、長期の入院や治療となったとしても、120万円以上を請求することはできず、自己負担となってしまいます。
休業給付(休業補償給付)のメリット・デメリット
休業給付(休業補償給付)のメリットとしては、「長い期間補償を受けることができる」ところにあります。労災保険では、最長で「1年6ヶ月」の補償を受けることができるので、休業が長引くケースでは、非常にメリットが大きいでしょう。
さらに、症状が重い場合には、休業給付から「傷病補償年金」に切り替えることが可能になります。厚生労働省が定める「傷病等級」の第1~第3級の症状が認められれば支給されますが、その要件は「手足を失った」「失明した」など非常に厳しくなっています。
デメリットとしては、「1日あたりの収入の80%しか受け取れないこと」や「会社が作成・提出する資料が多く、手続きが複雑になること」などがあります。そのため、労災保険を使うことを嫌がる会社も少なくありません。
休業損害 | 休業給付・休業補償給付 | |
---|---|---|
メリット | ・1日あたりの収入の100%が補償される可能性が高い。
・収入がない人でも補償される。 |
最長で「1年6か月」補償を受けられる。 |
デメリット | 120万円という限度額がある。 | ・1日あたりの収入の80%しか補償されない。
・手続きが複雑になる。 |
弁護士に相談しましょう
勤務中や通勤中に交通事故に遭った場合には、「休業損害」と「休業給付(休業補償給付)」を選択する必要が出てきます。
ただし、請求できる金額などは、ケースによって大きく異なるため、素人が両方を比べ結論を出すには多大な労力と時間が必要になるでしょう。どちらを選択するにしても、用意しなければ書類は多く、手続きも複雑になります。入院や通院に専念しなければならない時に、そんなことができるでしょうか。
交通事故に強い弁護士に依頼すれば、あなたに代わってすべての手続きを適切に進めることができます。また、被害者請求の最大化が可能になります。交通事故でお悩みなら弁護士に相談しませんか。