この記事でわかること
- 交通事故の死亡慰謝料の相場がわかる
- 死亡慰謝料を増額させるためのポイントがわかる
- 交通事故の死亡慰謝料は誰がいくら受け取れるのかがわかる
- 死亡事故の慰謝料を請求する流れがわかる
交通事故で被害者が死亡してしまったとき、本人の無念さもさることながら残されたご遺族の悲しみにも筆舌に尽くしがたいものがあることでしょう。いくら加害者側から慰謝料をもらったとしても、亡くなった被害者は帰ってきません。
しかし、加害者側の保険会社から提示される慰謝料額は、不当に低額であることがほとんどです。言われるがままに示談してしまうとご遺族が損をしてしまいますし、被害者本人も浮かばれないのではないでしょうか。
この記事では、交通事故で被害者が死亡した場合の慰謝料の相場と、さらに慰謝料を増額するためのポイントを分かりやすく解説していきます。
交通事故の死亡慰謝料とは
死亡事故で被害者側に支払われる慰謝料のことを「死亡慰謝料」といいます。
まずは、交通事故の死亡慰謝料についてご遺族として知っておくべきポイントを解説します。
死亡慰謝料を請求できる根拠
そもそも慰謝料とは、他人の不法行為によって被害者が受けた精神的苦痛を償うために支払われる損害賠償金のことです。
死亡事故では、加害者が過失によって交通事故という不法行為を発生させ、相手方の生命を侵害するという損害を与えています。
被害者側は加害者に対して、民法第709条および711条に基づいて慰謝料を請求できます。
死亡慰謝料は2種類ある
交通事故の死亡慰謝料には、次の2種類のものがあります。
- 被害者本人に対する慰謝料
- 遺族に対する慰謝料
被害者本人に対する慰謝料
交通事故で亡くなった被害者本人も、当然ながら精神的苦痛は受けています。たとえ即死の事案であっても、事故の瞬間に恐怖感や絶望感、無念さなどの精神的痛を受けているはずであり、そのときに被害者本人に慰謝料請求権が発生します。
そして、被害者本人が死亡すると、発生していた慰謝料請求権が相続人へ引き継がれます。
遺族に対する慰謝料
死亡事故の被害者のご遺族は、大切な人を亡くしたことによって深い悲しみや今後の生活への不安などの精神的苦痛を受けるのが通常です。そのため、ご遺族にも固有の権利として加害者に対する慰謝料請求権が発生します。
なお、民法第711条によれば慰謝料を請求できるご遺族は被害者の父母、配偶者及び子に限られています。
もっとも、事情によってはこれらの立場に準じる立場の人にも遺族としての慰謝料請求権が認められることもあります。
例えば、内縁の配偶者や同居していた兄弟姉妹などです。ただし、これらの人たちに慰謝料請求権が認められる場合でも、父母・配偶者・子の場合に比べると慰謝料額は低く抑えられる傾向にあります。
死亡慰謝料の請求権には時効がある
死亡慰謝料の請求権には時効があるため、長期間にわたって請求しないでいると慰謝料を受け取れなくなってしまいます。
時効期間は、以下のとおりです。
- 損害および加害者を知った時から5年(2020年4月1日以降に死亡した場合)
- 事故発生から20年
多くの場合は被害者が死亡した日の翌日から5年(2020年3月31日以前に死亡した場合は3年)で慰謝料請求権が時効にかかります。
ただし、ひき逃げなどの場合で加害者がすぐに判明しない場合は、判明したときから時効期間が始まります。
もっとも、加害者がずっと判明しない場合や、加害者が行方不明で慰謝料請求できない場合でも、事故から20年が経過すると慰謝料請求ができなくなります。この20年のことを除斥期間といいます。
以上の期間が経過した後は、死亡慰謝料だけでなく他の損害賠償金も請求できなくなってしまいます。
なお、自賠責保険会社に対する保険金請求については、自賠法で死亡した日の翌日から3年(2020年3月31日以前に死亡した場合は2年)と短期の時効期間が定められているので注意が必要です。
交通事故の死亡慰謝料の相場と計算方法
交通事故の死亡慰謝料には次の3種類の算定基準があり、どの基準を適用するかによって慰謝料額が大きく異なってきます。
- 自賠責基準
- 任意保険基準
- 裁判所基準
慰謝料額は自賠責基準で算定した場合が最も低く、裁判所基準で算定した場合が最も高くなります。
ご遺族の多くは任意保険会社と示談しているため、その意味では任意保険基準による慰謝料額が相場といえないこともありません。
ただ、3つの基準の中で正当な法的根拠に基づいた算定基準は裁判所基準だけです。したがって、正当な慰謝料額という意味では、裁判所基準による慰謝料額相場であると考えるべきです。
自賠責基準
自賠責基準とは、自賠責保険から慰謝料が支払われる場合に適用される算定基準のことです。
自賠責基準による死亡慰謝料は、次のように計算されます。
死亡慰謝料の種類 | 慰謝料額 | |
---|---|---|
被害者本人に対する慰謝料 | 400万円 | |
遺族に対する慰謝料 | 請求権者が1名の場合 | 550万円 |
請求権者が2名の場合 | 650万円 | |
請求権者が3名の場合 | 750万円 | |
被害者に被扶養者がいた場合 | さらに200万円 |
例えば、一家の大黒柱であった人が交通事故で亡くなり、慰謝料請求権者として妻と子供2人(いずれも被扶養者)がいた場合、死亡慰謝料は1350万円となります。
(計算式)
400万円(本人)+750万円(請求権者3名)+200万円(被扶養者)=1350万円
任意保険基準
任意保険基準とは、任意保険から慰謝料が支払われる場合に適用される算定基準のことです。
具体的な基準は各保険会社において独自に定めているため不明であり、保険会社によって若干異なる可能性もあります。
おおよその相場としては、次の表のようになっています。なお、慰謝料額は被害者本人の分とご遺族の分とを合わせた金額です。
被害者の立場 | 慰謝料額 |
---|---|
一家の支柱 | 1500万~2000万円程度 |
配偶者や母親 | 1500万~2000万円程度 |
その他(独身の男女、子供、高齢者など) | 1200万~1500万円程度 |
裁判所基準(弁護士基準)
裁判所基準とは、慰謝料請求の裁判において適用される算定基準のことです。過去の裁判例を分析して基準化されています。
裁判所基準による死亡慰謝料は、次の表の金額を目安としつつ、具体的な事情に応じて増減されることがあります。
なお、慰謝料額は任意保険基準の場合と同様、被害者本人の分とご遺族の分とを合わせた金額です。
被害者の立場 | 慰謝料額 |
---|---|
一家の支柱 | 2800万円 |
配偶者や母親 | 2400万円 |
その他(独身の男女、子供、高齢者など) | 2000万~2200万円 |
交通事故の死亡慰謝料が増額される要素
裁判所基準では、具体的な事情に応じて死亡慰謝料が増額されることがあります。裁判例上、増額が認められやすい事情として主に以下のケースが挙げられます。
- 加害者が飲酒運転や無免許運転、著しい速度違反、信号無視などによって事故を起こした場合
- 加害者が事故後にひき逃げをした場合
- 加害者が被害者側に対して挑発的または攻撃的な態度を示した場合
- 事故後の示談交渉や裁判において加害者が証拠隠滅や虚偽の主張をした場合
- 遺族が心身の不調を来して仕事や学業にまで支障をきたした場合
この他にも、さまざまな事情によって慰謝料増額が認められる可能性があります。気になる場合は弁護士に相談して確認することをおすすめします。
死亡慰謝料以外に請求できる損害賠償金
交通事故で被害者が死亡した場合、ご遺族は死亡慰謝料以外にも以下の損害賠償金を請求できます。該当するものは漏れなく請求するようにしましょう。
逸失利益
逸失利益とは、被害者が交通事故で死亡しなければ将来に得られたであろう利益のことです。金額は、次の計算式によって算定します。
基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
生活費控除とは、被害者が亡くなると将来の生活費がかからなくなるので、その分を賠償額から差し引くために用いられる割合のことです。
ライプニッツ係数とは、将来に受け取るはずだった利益が前倒しで賠償されることから、一定の割合で減額するために用いられる数値のことです。
逸失利益の額は、被害者が若く、また収入が高かったケースほど高額となります。
葬儀費用
交通事故で被害者が死亡すると、当然ながら葬儀費用がかかります。葬儀費用も一定の範囲で賠償されます。
賠償額は、次の表のようになっています。
算定基準 | 賠償額 |
---|---|
自賠責基準 | 100万円(一律) |
任意保険基準 | おおむね100万円程度 |
裁判所基準 | 150万円(上限) |
葬儀費用に含まれるのは、通夜、葬儀、火葬、埋葬、墓石などにかかる費用が主です。墓地の購入や香典返しにかかる費用は含まれません。
入通院慰謝料
被害者が即死ではなく病院で治療を受けた場合には、亡くなるまでの期間に応じて入通院慰謝料も請求できます。
それと併せて以下の賠償金も請求できるので、忘れないようにしましょう。
- 治療費
- 休業損害
交通事故で死亡慰謝料を請求する流れ
次に、交通事故で被害者が死亡してからご遺族が死亡慰謝料をはじめとする損害賠償金を受け取るまでの流れをみていきましょう。
誰が請求できるのか
被害者のご遺族であれば誰でも加害者に損害賠償請求できるわけではありません。請求できるのは相続人に限られます。
相続人となるのは、以下の人たちです。
- 配偶者
- 子供
- 両親
- 兄弟姉妹
被害者に配偶者がいる場合、配偶者は必ず相続人となります。
子供がいる場合、両親と兄弟姉妹は相続人になれません。子供がいない場合、両親がいれば両親が相続人となり、兄弟姉妹は相続人になれません。子供も両親もいない場合は、兄弟姉妹が相続人となります。
いつ請求すればよいのか
一般的には、四十九日が過ぎた後に損害賠償請求を行います。
理屈上は被害者の死亡後すぐにでも請求可能であり、葬儀が終わった後にご遺族が請求されるケースもあります。
ただし、早期に示談をすると加害者の刑事処分が軽くなる傾向があることは知っておきましょう。
通常は、加害者側の保険会社から「四十九日の後に話し合いをしましょう」と提案されます。
死亡慰謝料を請求する方法
四十九日後に、保険会社から示談金額を提示してきます。ご遺族がその提案に納得すれば示談が成立します。納得できない場合は反論し、交渉することが必要です。
加害者が任意保険に加入していない場合、自賠責保険に加入しているのであればご遺族から自賠責保険会社に請求できます。自賠責保険からの賠償金で足りない分は別途、加害者へ請求することができます。
加害者が任意保険にも自賠責保険にも加入していない場合には、加害者へ直接請求することになります。この場合、政府補償事業の申請を行うことによって自賠責保険と同様の補償を受けることができます。
示談交渉がまとまらない場合の対処方法
保険会社または加害者本人との示談交渉がまとまらない場合には、損害賠償請求訴訟を提起する必要があります。
訴訟では適正な損害額を請求するとともに、その根拠となる事実を主張し、その事実を裏づける証拠も提出しなければなりません。
裁判手続きは複雑で、勝訴するためには専門的な知識やノウハウが要求されるため、弁護士に依頼することをお勧めします。
受け取った慰謝料の分配方法
示談が成立した場合、慰謝料をはじめとする損害賠償金は相続人の代表者の口座に一括して振り込まれるのが一般的です。その場合には、ご遺族の間で賠償金をどのように分配すればよいのかが問題となります。
基本的には、法定相続分に従って分配します。法定相続分とは、民法で相続人の立場ごとに定められた相続分のことです。
主な相続のケースにおける法定相続分は、次の表のとおりです。
相続のケース | 相続分 |
---|---|
配偶者のみ | 配偶者が100% |
配偶者と子 | 配偶者:1/2 子:1/2(子が複数いる場合は均等に分ける) |
配偶者と親 | 配偶者:2/3 親:1/3(親が複数いる場合は均等に分ける) |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者:3/4 兄弟姉妹:1/4(兄弟姉妹が複数いる場合は均等に分ける) |
もっとも、相続人全員の話し合いで合意できれば、自由に分配することができます。
交通事故の死亡慰謝料を増額させるためのポイント
死亡慰謝料が増額される可能性があるとすれば、できる限り高額の慰謝料を受け取りたいところでしょう。
ここでは、交通事故の死亡慰謝料を増額させるためのポイントをご紹介します。
増額事由を主張する
まずは、先ほどご紹介した増額事由があるかどうかを確認しましょう。保険会社が積極的に増額事由を認めることはほとんどないので、ご遺族の側で確認し、主張することが大切です。
繰り返しますが、先ほどご紹介した増額事由は一例に過ぎません。次のような事情に心当たりがある場合は、弁護士に相談した方がよいでしょう。
- 交通事故の発生原因において加害者が悪質と思える場合
- 事故後の加害者の対応が不誠実と思える場合
- 事故によってご遺族に特別な損害が生じた場合
加害者の過失の重大さを主張する
死亡事故の場合、被害者が亡くなっていることから、加害者は「死人に口なし」とばかりに自分の過失を過小に申告することが少なくありません。
この点を見過ごしてしまうと被害者の過失が過大に評価され、損害賠償金が減額されてしまいかねません。
事故の発生状況を確認するには、警察の捜査資料を取り寄せるのが有効です。実況見分調書や写真撮影報告書、目撃者の供述録取書などを精査しましょう。
加害者の言い分と食い違う点があれば指摘し、加害者の過失の重大さを主張することが重要です。
裁判所基準で請求する
損害賠償請求を裁判所基準で行うことができれば、それだけで他の2つの基準による場合よりも死亡慰謝料の金額が大幅に増額されます。
裁判所基準で請求するためには裁判を提起するか、または弁護士に示談交渉を依頼することが必要です。
弁護士に依頼した場合、保険会社も示談交渉が決裂すればすぐに裁判を起こされると考えるため、裁判所基準による賠償額で示談が成立することもあります。
交通事故の死亡慰謝料に税金はかかるのか
死亡慰謝料を含めて、ご遺族が受け取る損害賠償金は原則として非課税であり、税金はかかりません。
ただし、一部には例外があり、以下の場合には相続税・所得税・贈与税のいずれかがかかる可能性があります。
- 搭乗者傷害保険で死亡保険金を受け取った場合
- 自損事故保険で死亡保険金を受け取った場合
- 人身傷害保険で死亡保険金や被害者の過失割合に当たる部分の保険金を受け取った
- 生命保険や医療保険から死亡保険金を受け取った
課税される場合には思わぬ高額の税金が課されることがあるので、保険の内容をしっかりと確認しておきましょう。
加害者側の対人賠償保険から支払いを受ける場合は、心配いりません。
死亡事故の慰謝料請求を弁護士に依頼するメリット
死亡事故で慰謝料請求をする場合には、弁護士に依頼するのが得策です。それによって得られるメリットは以下のとおりです。
- 示談交渉を代行してもらえるので精神的ストレスが軽減される
- 裁判手続きを任せることができ、基本的に裁判に出頭する必要がない
- 裁判所基準で請求してもらえるので慰謝料の大幅な増額が期待できる
まとめ
交通事故で大切な人を失い、悲しみに打ちひしがれていると保険会社と金額の交渉を行うのも億劫になることでしょう。
保険会社の担当者も表向きには丁重な態度で接してくれるので、言われるがままに示談したくなるかもしれません。しかし、それでは正当な賠償を受けることは難しくなります。
亡くなったご本人のためにも、残されたご遺族のためにも、専門的な交渉は弁護士に任せて適正な死亡慰謝料を受け取りましょう。