保険会社は、交通事故後に被害者に対して慰謝料を提示して示談を持ちかけてきますが、その慰謝料の金額は不当に低いケースが多いことをご存知でしょうか?
交通事故の慰謝料には3つの基準というものが存在します。金額が高い順に「弁護士基準(裁判基準)」「任意保険基準」「自賠責基準」ですが、それぞれ計算すればその金額差は歴然です。
保険会社は、高額な障害慰謝料(入通院慰謝料と呼ばれることもある)が発生している事故事件であっても弁護士基準の慰謝料を提示することはほとんどありません。そのため、保険会社との示談交渉では、慰謝料を増額するために何としてでも弁護士基準を勝ち取ることが重要です。
この記事では、交通事故の弁護士基準の障害慰謝料の計算と増額のために弁護士に依頼するメリットについて解説します。
損害賠償額(慰謝料)には3つの算定基準がある
交通事故の慰謝料額の算定方法には3つの基準があります。
最も低い補償が法律で加入が義務付けられている自賠責保険の「自賠責基準」。次が自賠責基準をもとに保険会社が独自に設けた「任意保険基準」。(この2つはさほど金額差はありません)最も補償額が大きいのが、弁護士や裁判所が用いる「弁護士基準(裁判基準)」です。
そのため、保険会社と示談する前に「3つの基準は何か?」「どれぐらいの金額差が出るのか?」を知ることが重要になります。それぞれの基準の基礎知識について説明します。
1.自賠責基準(最も低い基準)
自賠責基準は、自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)が交通事故の被害者に対する救済措置として最低限の補償をするために定められた基準です。
自賠責基準の補償は、「日額4,200円」と定められています。自賠責基準では、「実際に入通院した日数×2」と「治療期間日数」の少ないほうに4,200円をかけた金額が慰謝料額となります。
2020/04/01に基準が改定され、それ以降に発生した事故の場合は「日額4,300円」になりました。
自賠責基準とは、3つの基準の中では補償額は最も低く、上限(慰謝料・治療費・休業損害含め120万円)が定められており、補償範囲(人身に限る)が限定されています。つまり自賠責基準とは最低限の補償であることを覚えておきましょう。
2.任意保険基準(保険会社が提示する基準)
任意保険基準は、それぞれの保険会社が独自に設定した慰謝料基準です。任意保険基準は入院・通院期間に応じて慰謝料を算定するのが特徴です。自賠責保険で損害額をカバーできない場合に、超える部分の補償を任意保険で補うという考え方になります。
かつては保険会社の間で“統一の任意保険基準”というものが存在しましたが、今では、それぞれの保険会社は独自のルールで任意保険基準を設定しています。ただし、各保険会社は今でもその「統一基準」を任意保険基準のベースにしているため、慰謝料の金額は保険会社によって多少の差はあるものの、大きな金額差は無いと言われています。
任意保険基準は、実際には自賠責基準とほとんど金額は変わらないというのが実情です。そのため、保険会社が提示する慰謝料は不当に低いと言われる所以になっています。
【参考】:任意保険基準とは?その慰謝料と計算方法
3.弁護士基準(最も高い賠償基準)
弁護士基準とは、その名の通り弁護士が慰謝料などを算定する際に用いる基準です。裁判の参考として用いられる「赤い本(民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準)」と「青い本(交通事故損害算定基準)」をもとに損害額を算定します。
交通事故の裁判では、同じような事故の判例をもとに同等の判決が出るという考え方の慰謝料基準になります。弁護士基準は新たな判例がでる度にその慰謝料算定方法は年々変化します。
被害者は示談を弁護士基準で解決すべきである
交通事故の被害者は弁護士基準で解決を目指すべきだというのがこの章の結論です。なぜなら、自賠責基準、任意保険基準と比べて、その慰謝料額には大きな差があるからです。
しかし、ここまで読んで不思議に思われる方は多いと思います。交通事故の慰謝料は、本来なら、「裁判の判例として用いられる弁護士基準で支払われて当然だ!」と考えるのが普通です。しかし、そこには保険の仕組みの問題、保険会社の思惑が入ることにより、被害者に対して「弁護士基準」の慰謝料が支払われないわけです。
保険会社は自社の基準に定めた「任意保険基準」の低い慰謝料を提示するのが常套です。そこでは弁護士基準による正当な損害額よりもはるかに低い金額が提示されます。
任意保険基準と弁護士基準の慰謝料は2倍、3倍もの差が出ることはよくあります。重大な事故の場合には、弁護士基準で解決できたことにより慰謝料が数百万円以上も増額できたというケースは珍しくありません。
このように慰謝料交渉では、必ず弁護士基準で示談しないと、被害者は損をすることが大半なのです。
自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準の計算比較
具体的にそれぞれの基準で慰謝料を計算してみると、その金額差に驚きます。
例えば、週3回の入通院治療をおこない、実通院日数48日(通院期間4ヵ月)のケースを例として、それぞれの基準を比較してみましょう。
なお、自賠責基準は改定後の数値を用います。
自賠責基準の入通院慰謝料の計算
自賠責基準では、実通院日数48日×2=「96日」と通院期間6ヶ月の「180日」では、実通院日数×2の96日の方が小さくなりますので、「96日」が採用されることになります。この自賠責の入通院慰謝料は「96×4,300円=41万2,800円」になります。
任意保険基準の入通院慰謝料の計算
任意保険基準では、通院期間6ヵ月が採用されることになります。かつて保険会社が統一で使用していた任意保険基準で計算すると、通院4ヶ月の基本額は「47万8,000円」になります。 ここから怪我の程度や実通院日数により調整されます。保険会社は、怪我や通院を認めないなどの交渉をおこなうため、実際は自賠責基準とさほど変わらない慰謝料金額になります。
任意保険基準の慰謝料計算式
下表はかつて保険会社が統一で使用していた任意保険基準の計算式です。各保険会社は今もこの基準をベースに慰謝料を算出します。
弁護士基準の入通院慰謝料の計算
弁護士基準では、「他覚的所見のある怪我」と「他覚的所見のない怪我」で算定基準が異なります。他覚的所見の有無は、レントゲンやMRIなどの画像所見や医師の見解によって症状を裏付けることができるかで異なります。
むちうちなど画像所見では判断できないものは「他覚的所見のない怪我」となり、通院4ヶ月「67万円」、骨折など画像所見で判断できるようなものは「他覚的所見のある怪我」となり、「90万円」が通院慰謝料となります。
また、入院が必要となるケースでは、通院2か月+入院2か月の場合で「139万円」、入院4ヶ月の場合で「184万円」となります。
このように、弁護士基準で計算すると、自賠責基準や任意保険基準よりも、2、3倍以上も慰謝料が増額できるケースは珍しくありません。
弁護士基準の慰謝料計算式
下表の弁護士基準計算式の「別表1」は他覚的所見のある怪我、「別表2」は他覚的所見がみられないケースの計算式になります。
別表1
別表2
後遺障害慰謝料も各基準によって異なる
症状固定後も後遺症が残る場合には、入通院慰謝料とは別に後遺障害慰謝料が支払われます。入通院の慰謝料は算定基準が変わるだけで慰謝料額に大きな差が出ますが、これは「後遺障害慰謝料」も同様です。
例えば、腰や背中などを強く打ち、腰椎圧迫骨折または脊椎圧迫骨折という診断が出たケースを例にすると、通常は後遺障害第6級が認定対象となります。
その場合、任意保険基準では約600万円、弁護士基準では1,180万円と、任意保険基準に比べて約2倍、プラス580万円もの大きな金額差が出ます。
弁護士基準の後遺障害慰謝料 | |
---|---|
第1級 | 2,800万円 |
第2級 | 2,370万円 |
第3級 | 1,990万円 |
第4級 | 1,670万円 |
第5級 | 1,400万円 |
第6級 | 1,180万円 |
第7級 | 1,000万円 |
第8級 | 830万円 |
第9級 | 690万円 |
第10級 | 550万円 |
第11級 | 420万円 |
第12級 | 290万円 |
第13級 | 180万円 |
第14級 | 110万円 |
弁護士基準の慰謝料にするならば弁護士に依頼すること
弁護士基準の慰謝料を獲得するためにやるべきことが「交通事故に強い弁護士」への依頼です。一般の人が示談のプロである保険会社と同じレベルで交渉するのは難しいのが実情です。そのため、唯一残された手段が弁護士への依頼です。
これまで述べてきたように交通事故の慰謝料交渉では、必ず弁護士基準で請求すべきです。しかし、この慰謝料交渉では保険会社が有利に解決できる仕組みになっているのが現状です。
例えば、交通事故の過失割合は警察が決めることではなく、事故の形式や判例などから保険会社が判断します。そのため、自分は全く悪くないと思っているケースや相手が全面的に非を認めているケースであっても、過失が付けられることもあります。
被害者にとって慰謝料請求で障害になるのは“保険会社の独自の交渉術”です。保険会社はあくまで営利企業ですので、被害者の利益などは考えません。慰謝料を少なくして支出を抑えようとするのが実情です。
保険会社と対等に交渉するためには必ず専門的な知識が必要となります。被害者本人が独力で保険会社と交渉しても納得できる慰謝料を獲得できる可能性は限りなく低いです。
それを打開してくれるのが弁護士です。交通事故に強い弁護士に依頼すれば、保険会社との交渉をおこない「弁護士基準」での示談を勝ち取ってくれる可能性が高くなります。また、事故後の各種手続き、入院・通院や後遺症のアドバイスなど、被害者をフルサポートしてくれます。
保険会社が提示する低い慰謝料から増額できることはもちろん、時間的にも精神的にも余裕が生まれ、治療に専念することができます。
【参考】:交通事故に強い弁護士に相談・依頼すべき理由と5つの探し方
まとめ
交通事故の慰謝料増額のためにやるべきことは、事故後はできるだけ早く弁護士に依頼することです。すべて保険会社任せにしてしまうと適正な金額を獲得することはでできません。保険会社は少しでも慰謝料額の支払いを少なくするために厳しい交渉に出てきます。
弁護士に依頼することで適正な入通院慰謝料の獲得、後遺障害が認定も期待できます。弁護士費用特約に加入していれば、費用も0円で依頼できます。弁護士基準で慰謝料を獲得したいならば、早めに相談されることをお勧めします。