交通事故の後遺障害の中でも口に後遺障害が残ると、「言葉をうまく話せない」「食べ物をうまく噛めない」など、日常生活への影響は大きくなります。
交通事故での口の後遺障害には、どのようなものがあるのでしょうか?今回は、交通事故の口の後遺障害の種類と、相手に請求できる賠償金について解説します。
1.口の後遺障害の種類
交通事故で認められる口の後遺障害には、どのようなものがあるのでしょうか?これについては、大きく分けて咀嚼障害(そしゃくしょうがい)、言語障害、味覚障害、歯の後遺障害があります。
・咀嚼障害とは、ものを噛んだり飲み込んだりする力の障害
・言語障害とは、言葉を発する能力の障害
・味覚障害とは、味覚の感じ方の障害
・歯の後遺障害は歯の欠損の障害
以下で、それぞれについて、詳しく見てみましょう。
2.咀嚼障害
咀嚼障害とは、ものを噛んで飲み込む機能に障害が残るケースです。交通事故で咀嚼障害が残った場合、その程度によって認定される後遺障害の内容が異なります。
最も程度が重いのは、咀嚼機能を廃したものであり、次が咀嚼機能に著しい障害を残すもの、最も程度が軽いのが、咀嚼機能に障害を残すもの、となります。
(1)咀嚼機能を廃したもの
咀嚼機能を廃したものとは、咀嚼ができなくなることを意味するので、固形の食べ物は一切食べられません。スープなどの流動食以外を摂ることが出来なくなった場合を意味します。
(2)咀嚼機能に著しい障害を残すもの
咀嚼機能に著しい障害を残すものは、咀嚼機能が少し残っていますが、ほとんどを喪失してしまった場合を言います。具体的には、おかゆなどのものしか食べられない状態です。
(3)咀嚼機能に障害を残すもの
咀嚼機能に障害を残すもの、という場合には、固形の食べ物の中に、咀嚼ができないものがある場合か、咀嚼を十分にできない場合です。後遺障害が認定されるには、咀嚼機能の障害を、医学的に確認できる必要があります。
たとえば、顎関節の障害や開口障害、正咬合や咀嚼関与筋群の異常、歯牙の損傷などがある場合が考えられます。
咀嚼機能に障害を残すもの、という場合には、ご飯などは食べられるけれども、たくあんやピーナッツ、おかきやらっきょうなどの固い食べ物が咀嚼できない場合と考えるとわかりやすいです。
開口障害等が起こって咀嚼に時間がかかってしまう場合にも、後遺障害となります。
3.言語障害
次に、言語障害が残るケースを見てみましょう。交通事故で口に怪我をすると、言葉をうまく話せなくなることがあります。この場合を、言語障害と言います。
言語障害も、程度に応じて異なる後遺障害が認定されます。最も重いのが、言語の機能を廃したもの、次が言語の機能に著しい障害を残すもの、最も軽いのが、言語の機能に障害を残すもの、となります。
これらについては、人間の基本的な発音方法である4種類の語音について、どこまで正確に発音できるかによってはかります。その4種類の発音方法は、以下の通りです。
- 口唇音:ぱ行音、ば行音、ふ、ま行音、わ行音
- 歯舌音:さ行音、しゅ、し、ざ行音、じゅ、た行音、だ行音、な行音、ら行音
- 口蓋音:か行音、が行音、ぎゅ、にゅ、ひ、や行音、ん
- 喉頭音:は行音
この中で、3種類以上の発音ができなくなると、「言語の機能を廃したもの」となります。
「言語の機能に著しい障害を残すもの」とは、この中で2種類以上の発音ができなくなった場合、または綴音の能力(異なる種類の語音を発する能力)に障害があるために言語で意思疎通することができないケースです。
言語の機能に障害を残すものとは、上記の4種類のうち、1種類以上の発音ができなくなったケースです。
上記の発音方法による認定とは別に、声帯麻痺によってかすれ声が著しいケースにおいても、後遺障害が認定されます。
4.咀嚼障害と言語障害の後遺障害の等級の表
以下で、咀嚼障害と言語障害の後遺障害の等級の表をまとめましたので、見てみましょう。
等級 | 後遺障害の内容 | 症状 |
---|---|---|
1級2号 | 咀嚼及び言語の機能を廃したもの | 流動食以外摂取できず、かつ3種類以上の語音を発音できない |
3級2号 | 咀嚼又は言語の機能を廃したもの | 流動食以外摂取できないか、3種以上の語音を発音できない状態 |
4級2号 | 咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの | 粥食など以外を摂取できず、かつ2種類の語音が発音できない、または綴音機能に障害がある |
6級2号 | 咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの | 粥食等以外摂取できないか、2種類の語音が発音できないまたは綴音機能に障害がある |
9級6号 | 咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの | 固形食物において、十分咀嚼できないものがあり、かつ1種類の語音を発音できない |
10級3号 | 咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの | 固形食物において、十分咀嚼できないものがあるか、または1種の語音を発音できない状態 |
12級 | そしゃくに相当時間を要する状態 |
このように、咀嚼障害と言語障害は、1体として把握されています。これは、口に障害が残ると、咀嚼と言語のどちらにも障害が起こることが多いことによります。
たとえば、咀嚼機能と言語機能の両方を失っていたら1級になりますし、どちらかを失っていたら3級になります。咀嚼機能と言語機能の両方に著しい障害が残っていたら4級ですが、どちらかに著しい障害が残っていたら6級になります。
5.味覚障害
口の後遺障害には、味覚障害もあるので、以下で見てみましょう。味覚障害とは、舌や顎の周辺組織や頭部などに対する衝撃で、味覚が失われたり感じにくくなったりする障害です。
味覚障害があるかどうかについては、甘味、塩味、酸味、苦味の基本4味質のうちで、どれだけを認知できなくなったかによって判断されます。
これらの基本4味質を全く感じられなくなったら、味覚脱失となって後遺障害12級が認定されます。
基本4味質のうち、1つ以上が感じられなくなった場合には、味覚減退として14級が認定されます。
6.歯の後遺障害
交通事故の口の後遺障害には、歯の後遺障害もあります。歯の後遺障害は、事故で歯を失った場合などに認められますが、後遺障害として認定されるのは、適切な治療を行った後の段階です。
たとえば、交通事故直後に歯がぼろぼろになっていても、その状態で評価するのではなく、歯科医で適切な処置を受けた状態で後遺障害の等級認定をします。
歯の後遺障害は、失った歯の数によって等級がことなります。たとえば、6つの歯を失って、その隙間に7つの入れ歯を入れた場合には6つの歯の欠損として扱われます。
また、歯はなくなるか著しく欠損することが認定要件となっており、インレーやポストインレー、4分の3クラウンなどで処置した場合には後遺障害に該当しません。歯は3つ以上失うことが必要で、1本や2本の歯の欠損の場合には後遺障害が認定されません。また、欠損する歯は永久歯である必要があり、乳歯を失っても後遺障害の認定は行われません。
歯の後遺障害については、以下の表の通りです。
後遺障害等級 | 後遺障害の内容 |
---|---|
第10級4号 | 14歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
第11級4号 | 10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
第12級3号 | 7歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
第13級5号 | 5歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
第14級2号 | 3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
歯科補綴(しかほてつ)とは、歯科医で適切な処置治療を受けて歯を入れたことを意味します。
歯の欠損による後遺障害の場合には、労働能力が低下したと考えにくいので、逸失利益が否定されることが多いという問題があります。
7.口の後遺障害で請求出来る賠償金
次に、口の後遺障害が認められる場合、どのような賠償金がどの程度認められるのか、ご説明します。後遺障害が認められると、後遺障害慰謝料と逸失利益という2種類の賠償金が認められるので、以下でそれぞれを見てみましょう。
(1)後遺障害慰謝料
後遺障害が残ると、その等級に応じて後遺障害慰謝料が認められます。後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ったことによって被る精神的苦痛に対する慰謝料のことです。
後遺障害の等級が上がるほど、後遺障害慰謝料の金額は高額になります。弁護士・裁判基準で後遺障害慰謝料を計算すると、その金額は以下の通りとなります。
後遺障害等級 | 弁護士・裁判基準 |
---|---|
第1級 | 2800万円 |
第2級 | 2370万円 |
第3級 | 1990万円 |
第4級 | 1670万円 |
第5級 | 1400万円 |
第6級 | 1180万円 |
第7級 | 1000万円 |
第8級 | 830万円 |
第9級 | 690万円 |
第10級 | 550万円 |
第11級 | 420万円 |
第12級 | 290万円 |
第13級 | 180万円 |
第14級 | 110万円 |
口の後遺障害でも、咀嚼・言語機能が両方失われたケースなどでは、後遺障害1級が認められます。そのような場合には、2800万円もの慰謝料が認められることになります。
ただ、上記の金額は、後遺障害慰謝料が最も高額になる弁護士・裁判基準で計算した場合の金額なので、被害者が相手の任意保険会社と示談交渉をする場合には、金額が安くなるので注意が必要です。
口の後遺障害が残った場合になるべく多額の後遺障害慰謝料を請求するためには、弁護士に示談交渉を依頼する必要があります。
(2)逸失利益
後遺障害が残った場合には、逸失利益を請求することもできます。逸失利益とは、交通事故で後遺障害が残ってしまったことにより、それまでのようには働けなくなってしまうので、得られなくなってしまった将来の収入のことです。
そこで、逸失利益は交通事故前に働いて収入があった人のケースで認められます。各後遺障害において労働能力喪失率が定められているので、その数値によって逸失利益を計算します。
後遺障害の等級が高いと労働能力喪失率が高くなるので、等級が上がると逸失利益の金額も上がります。咀嚼と言語の機能が失われた場合には、1級や3級などの高い等級の後遺障害が認定されますが、このようなケースでは労働能力喪失率が100%となるので、極めて高額な逸失利益が認められることが多いです。
若い人や収入が高い人の場合には、1億円を超える逸失利益が認められるケースもあります。各後遺障害等級における労働能力喪失率は、以下の表の通りです。
障害等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
第1級 | 100% |
第2級 | 100% |
第3級 | 100% |
第4級 | 92% |
第5級 | 79% |
第6級 | 67% |
第7級 | 56% |
第8級 | 45% |
第9級 | 35% |
第10級 | 27% |
第11級 | 20% |
第12級 | 14% |
第13級 | 9% |
第14級 | 5% |
8.歯の後遺障害と逸失利益について
口の後遺障害の中でも、歯の後遺障害が残った場合、逸失利益が問題になることが多いです。歯を失ったり損傷を受けたりして、入れ歯などに変えたとしても、そのことによって労働能力が低下したとは考えにくいからです。
歯は、なくなっても修復したら歯の機能自体は回復したように思えるので、このような主張が行われます。保険会社も歯の後遺障害の逸失利益を否定してきますし、裁判例でも、逸失利益を認めないものが多くあります。
ただし、入れ歯などによって歯を修復しても、言語の発音に障害が残るケースがありますし、歯を食いしばることができなくなることもあります。このような障害が残ると、肉体労働などは厳しくなることも考えられますし、ストレスのかかる仕事では歯ぎしりなどが増えるので、やはり困難が発生するおそれもあります。
このように、入れ歯などによって歯の治療をしても、必ずしも労働能力の低下がないとは言えず、被害者の仕事内容や歯の状態などの個別の事情によって、労働能力の低下が認められる可能性はあります。
裁判例でも、歯の後遺障害の逸失利益を肯定した例があるので、諦める必要はありません。
また、たとえ逸失利益は否定されても、入れ歯の手入れが手間になることや味覚に影響が起こること、歯の治療のために健康な歯まで削られることなどから、後遺障害慰謝料が増額されることもあります。
以上のように、歯の後遺障害と逸失利益の問題は、対処方法が難しいところが多いので、自分では適切に対応できない場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ
以上のように、交通事故で口に後遺障害が残ると、さまざまな障害が発生します。ものを噛めなくなったり言葉を発することが難しくなったりすると、日常生活にも大きな支障が発生します。
味覚障害が起こった場合、後遺障害の等級は高くはありませんが、本人にとっては大きな苦痛となります。歯がなくなった場合も、入れ歯をしたから解決できるというものではないでしょう。
このように、口の後遺障害が残った場合には、健康が戻ってこない以上、相手に対して適切に賠償金請求を行って、正当な金額の支払いを受けるしかありません。
そのためには、裁判所・弁護士基準で支払いを受ける必要があるので、交通事故の示談交渉は弁護士に依頼する必要性が高いです。また、後遺障害の等級認定に申請においても弁護士に手続きを依頼するほうが上位の等級を取得できる可能性が高くなります。
今交通事故で口の後遺障害が残って悩んでいる場合には、まずは交通事故に強い弁護士に相談することをおすすめします。