妊娠中に交通事故の被害者になってしまうことは、肉体的な苦痛以上に精神的苦痛も伴います。
さらに一般的な交通事故とは異なり、妊婦が交通事故の被害に遭った場合は当事者である本人だけではなく、お腹の中の胎児への影響も考えなければなりません。
ここでは妊婦が交通事故に遭った際に受診すべき病院と事故が与える胎児への影響、そして万が一流産となってしまった場合に請求可能な慰謝料とはどのようなものなのか確認していきましょう。
妊娠中に交通事故に遭ったら病院で受診をしましょう
妊娠中に交通事故の被害に遭ってしまった場合は、迷わず病院で受診をするべきです。交通事故の衝撃が体に与える負荷は想像以上に大きなものであり、仮に事故当時に自覚症状がなかったとしても、後に症状があらわれる可能性があります。また妊婦の場合は、交通事故発生時に受けた衝撃が原因となり、お腹の中にいる胎児への影響も考慮しなければなりません。
さらに病院で診断書を書いてもらうことにより通院歴の証明ともなります。通院歴の証明は後の示談交渉を有利に進めるためにも重要となります。
そのため、妊娠中に交通事故の被害に遭った場合は、必ず病院を受診するようにしましょう。
妊婦が交通事故に遭ったらまずは整形外科へ行くべき
妊娠中に交通事故に遭った際は、まず整形外科を受診するようにしてください。それは整形外科ではむち打ち・捻挫・骨折といった怪我の診察が可能となるためです。
とくにむち打ち損傷は交通事故の被害でもっとも多い怪我とされています。むち打ち損傷とは,交通事故等による外部からの衝撃により,首がむちを打ったように伸縮した結果,頸部の筋肉・靭帯・椎間板等の軟部組織や骨組織が損傷することを総称した用語です。
また、むち打ち損傷の場合で最も多い症状が首の痛みとなりますが、妊婦の場合は胎児のことも考え、腰からお腹にかけての怪我にも気に掛ける必要があります。
さらにむち打ち損傷は自覚症状がなくても事故から数日後に痛みが現れる可能性があります。そのため自己判断は禁物であり、整形外科において専門的診断を受けることが重要です。
整形外科ではMRI検査やレントゲン撮影といった精密検査を受けることが可能ですので、事故後はまず整形外科の受診をするようにしましょう。なお、妊婦の場合は治療が制限される可能性があるため、整形外科にかかる際は自分が妊娠中であることを必ず担当医に伝えることを忘れないようにしましょう。
胎児への影響を考えて産婦人科も忘れず受診する
妊婦が交通事故の被害に遭った場合は、整形外科とあわせて産婦人科の受診も忘れずに行うべきです。交通事故は、想像以上の力が体に負荷をあたえます。そのためたとえ自覚症状なかったとしても、お腹の胎児への影響を考慮する必要があるためです。
産婦人科は妊娠中であれば誰しもが定期的に受診することになります。そのため産婦人科の医師は、妊娠期間中の母親の健康状態や胎児のことをもっとも理解していると言えます。
産婦人科では、エコー検査等の検査を通して胎児への影響を確認することが可能です。さらに産婦人科では胎児に関わる診察のみならず、事故が原因の心理的ストレスを相談することもできます。
自分の体を守るだけではなく、生まれてくる子供のためにも、整形外科とあわせて産婦人科も必ず受診するようにしましょう。
精神的の負担(PTSD・うつ病など)を感じたときは心療内科を受診する
交通事故は身体的負担も大きいですが、精神的な負担も大きくかかります。とくに妊婦の交通事故は、妊娠という普段とは違う生活を強いられる状況下において、さらに交通事故という想定外のトラブルが加わるため、その精神的ストレスは計り知れません。
交通事故を原因とする疾患としては、PTSDやうつ病があげられます。PTSDとは、強烈なショック体験や強い精神的ストレスが心的なダメージとなり、事故後に時間がたってからも、その経験に強い恐怖を感じる精神疾患を指します。
心療内科ではそれらPTSDやうつ病の治療が可能だけではなく、妊娠中に抱える悩みをカウンセリングといった方法で解決することが可能です。
精神的に不安定な状況で出産を迎えることは、被害者である本人やパートナーにも負担がかかります。心療内科はあまり頻繁に行くイメージをお持ちでない方も多いですが、少しでも心に負担を感じた際は早めに受診することが重要です。
交通事故が胎児に与える影響
妊娠中に交通事故に遭った場合、特に心配になるのが胎児への影響です。一般的に妊婦が妊娠初期の場合は、骨盤が子宮を守ってくれるため、胎児が外傷を受ける可能性が低くなるとされていますが、妊娠中期以降は子宮が増大するため注意が必要となります。
また母体を通じた病気の他にも、胎児への直接的な外傷といった影響も考えられます。そのため交通事故が胎児に与える影響は、母体以上に注意が必要となります。以下の2例は妊婦の交通事故で特に注意したい疾患であるためご参照ください。
切迫早産
交通事故による外傷が原因で、切迫早産となる可能性も考える必要があります。切迫早産とは、通常40週前後で生まれてくる赤ちゃんが、37週間以内に生まれてきてしまうことを指します。そのため胎児は体の機能が成熟してない未熟児の状態で生まれてきてしまうことになります。
胎盤早期剥離
胎盤早期剥離とは、母体の胎盤が出産前に子宮の中で剥離する病気です。これにより胎児は胎盤を通して母親から栄養や酸素といった成長に必要な栄養のやりとりが困難となります。そのため胎児の状態が悪くなり、最悪のケースとして胎児死亡に至る場合もあります。
妊婦の交通事故における示談交渉で知っておきたい慰謝料と賠償請求
交通事故の被害に遭ってしまった場合、体と心のケアと同時に保険会社と示談交渉を開始しなければなりません。示談交渉には法律的な知識が不可欠となります。損害賠償金と慰謝料の違いといった初歩的な知識から今一度確認することが重要です。
損害賠償金と慰謝料の違い
損害賠償金とは、交通事故被害によりかかった入院費用・治療費・車の修理費用など、被害者が加害者に対して請求できる全ての賠償金のことを指します。賠償金の詳しい内訳は「治療費」「入通院慰謝料」「通院交通費」「休業損害」「後遺障害慰謝料」の4種類に加え、後遺障害に認定された場合は「後遺症慰謝料」と「逸失利益」の2種類が別途加わることになります。
そして慰謝料とは、数ある損害賠償のうちのひとつであり、精神的・肉体的苦痛による損害に対して払われる賠償を指します。交通事故において請求可能な慰謝料は「入通院慰謝料」「後遺症慰謝料」「死亡慰謝料」の3種類になります。
損害賠償という大きな枠組みの中に、慰謝料というカテゴリーがあるとイメージするとわかりやすいかと思います。
示談交渉を進めるにあたっては、法律的知識を理解しておくことが重要です。特に損害賠償と慰謝料の意味は多くの人が誤解している箇所でもあります。間違った情報や知識で示談交渉を進めると、相手の保険会社とトラブルになる可能性もあります。示談交渉を進める上で特に重要となるため今一度整理しておくことが重要と言えます。
妊婦が交通事故に遭った場合に請求できる慰謝料とは
慰謝料の内訳をより詳しく知っておくことは適正な慰謝料を受け取ることで重要となります。ここでは交通事故における慰謝料である「入通院慰謝料」「後遺障害慰謝料」「死亡慰謝料」の3種類を確認します。
入通院慰謝料
入通院慰謝料とは、交通事故が原因で入通院が必要となり受けた肉体的・精神的苦痛に対して支払われる補償です。通院期間と実際に治療した日数が慰謝料を計算する上で重要です。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、交通事故が原因となり後遺障害が残ったために受けた肉体的・精神的苦痛に対して支払われる補償です。後遺障害慰謝料を受け取るためには、後遺障害の等級認定を受けることが必要となります。
死亡慰謝料
死亡医者慮とは、交通事故が原因となり被害者が亡くなった場合に、生命を失ったことに対して賠償するために支払われるものです。亡くなったご本人は受け取ることができないため、被害者の相続人により請求されることになります。
これらの3種類の慰謝料は、もちろん被害者が妊娠している場合でも当然に請求することができます。
しかしながら妊婦の場合は、胎児に影響を及ぼす検査や治療が制限されるため、通院日数が少なくなる傾向があり、入通院慰謝料や後遺障害等級認定において不利に働く場合があります。
一方、事故が原因となり胎児が死亡に至った場合は妊婦への苦痛は多大であるとし、慰謝料の増額が認められるケースがあります。
このように妊娠中の慰謝料請求は複雑しやすい傾向にあるため、プロに任せることも重要です。
交通事故で流産となってしまった場合の慰謝料を知る
交通事故で流産となってしまった場合、母体にあたる母親が被害者に対し慰謝料を請求することとなります。
このようなケースで請求できる賠償金の種類としては、生まれてくる予定であった胎児を失ったことに対して、母親が精神的苦痛を得たことを考慮した慰謝料となります。そのため精神的苦痛を考慮した上で、請求できる慰謝料が増額される傾向となります。しかしながら流産に至った原因を証明することが重要となるため、妊娠中の示談交渉は複雑化しやすい傾向にあります。
妊娠中に交通事故に遭ってしまうと、事故が原因となり最悪の場合流産もしくは死産となってしまうケースも考えなければなりません。もちろん胎児が無事に生まれてくることがなによりですが、そのような場合に請求できる慰謝料の確認は弁護士に依頼することも視野に入れるとよいでしょう。
妊婦の交通事故の示談交渉は複雑化するため弁護士に相談すること
妊娠中に交通事故被害に遭ってしまった場合は、加害者と示談交渉を行うことで損害賠償金を請求することになりますが、妊娠中の示談交渉は心的ストレスも大きくかかるため弁護士に任せることを視野に入れた方がいいでしょう。
交通事故被害においては、基本的に加害者側の保険会社の担当者との交渉を進めていくことになります。しかし保険会社の中には、できるだけ慰謝料を低く抑えたいという理由から、被害者側に示談交渉を急がせるケースもあります。
また上でも説明したように、慰謝料の計算方法によっては本来受け取れるはずの金額より低く算定されてしまう場合もあります。妊娠中という人生で特別な時期に交通事故被害に遭ってしまったのにも関わらず、本来受け取れるはずの慰謝料を貰えなかったら浮かばれません。
そのため、妊娠中の慰謝料の示談交渉は弁護士という法律のプロフェッショナルに依頼することも視野に入れると良いでしょう。
まとめ
妊娠中に交通事故の被害者となってしまった場合、妊婦さんにとっては普段以上に体力的、そして心的ともに大きな負担がかかります。そのうえ事故の加害者や相手方の保険会社とのやりとりは、妊婦さんにとっても大きなストレスの原因となりえます。
そのような際は、法律のプロである弁護士に相談することで負担を軽くすることが可能です。一般的な交通事故よりも複雑化しやすい妊婦の交通事故における示談交渉を弁護士に任せることで、適切な慰謝料を請求できる可能性も上がります。
妊娠中の交通事故に関するお悩みは無理に自分一人で抱え込むのではなく、ぜひ弁護士への相談をご検討ください。