交通事故は他の車と衝突したり、歩行者や自転車に接触したりするだけでなく、落下物が原因となって起こることもあります。
高速道路上だけでも、年間でおよそ30万件以上の落下物があると言われています。落下物による事故に遭遇することは珍しいことではなく、被害者や加害者になる可能性は誰にでもあります。
落下物による事故を起こした場合、「その責任は誰にあるのか?」「事故に関わった車両がどのような割合で過失を負うのか?」。また、落下物による事故に巻き込まれない方法について解説します。
道路上の落下物にはどんなモノがある?
道路上の落下物は、風の影響を受けやすい、段ボールや毛布、布団、雑誌などから、トラックの荷台に積まれている、木材、鉄板、波型トタンといった資材まで、大小さまざまなモノがあります。
例えば、阪神高速道路で落下していたモノの中には、タイヤ、ドラム缶、スチール棚、スコップなどがあり、ぶつかったり、乗り上げたら危険なモノが見つかっています。
道路上の落下物は、交通の妨げになるだけでなく、大きな事故に発展する恐れもありますが、実際に事故が起きたときの責任の所在はどこにあるのでしょうか。
道路上の落下物の責任は落とし主にある
〝道路交通法 第75条の10
自動車の運転者は(一部省略)積載している物を転落させ、
若しくは飛散させることを防止するための措置を講じなければならない。”
とあるように、荷物を積むときは、荷物を積み込む車の運転手が、落ちないことを前提にきっちり確実に行う必要があります。万が一落下させてしまった場合には、上記道交法に違反したとみなされます。
落下物があることで大事故に繋がる恐れのある高速道路では、上記違反により3ヶ月以下の懲役、もしくは5万円以下の罰金、または10万円以下の罰金が罰則として設けられています。
さらに、落下物に気付かず放置してしまった場合には、
“道路交通法71条4号の2・転落物の除去義務
車両等の運転者は、積載物が道路に転落・飛散したときは速やかに除去する措置を講じなければならない”
に違反したことになります。もちろん、落下時に目撃者がおらず車両が特定されない場合もありますが、最近では、ドライブレコーダーの普及や防犯カメラの増加などを受け、それらの映像から特定されることも多いです。
罪に問われるか、問われないかは関係なく、道路上の落下物は非常に危険です。落ちないように積み荷を積むこと、万が一落下した場合には速やかに取り除くという対応が必要です。
落下物を見つけたら「道路緊急ダイヤル#9910」に連絡する
車の積み荷から荷物が落下しても、ドライバーが気付かない場合もあります。交通量の少ない道路であれば、しばらく放置されるということもあります。
車が接触したり踏んだりして傷付く恐れがあるだけでなく、衝突したことでさらなる事故を引き起こしたり、落下物が破損・飛散して歩行者が怪我をしたりするなど、被害が広がる恐れもあります。
落下物を見つけたら、すぐに道路緊急ダイヤル#9910に電話をしましょう。道路緊急ダイヤルの番号が分からないときは、取り急ぎ警察に通報でも構いません。
落下物が原因の事故の過失割合はどうなるの?
落下物の責任が落とし主にあることは分かりましたが、落下物が原因で事故が起こった場合、その過失は、誰がどの程度負うことになるのでしょうか。
落とし主は誰か分かっているケース
先行車両が荷物を道路上に落とし、その荷物がぶつかって車が傷付いてしまった場合、落とし主は先行車両ということが明らかなので、落とし主の過失を問うことができます。
一般道路では、すぐ前の車両から突然モノが落ちてきてぶつかってきた場合、【落とし主10:被害車両0】で損害賠償を請求することも可能です。
しかし、多くの場合、被害車両の前方不注意や走行速度が問われるなどして、【落とし主7:被害車両3】の過失割合で落ち着くことが多いようです。
一方高速道路では、落下物による事故が大事故に発展する恐れがあるため、落下物を避けられるだけの充分な車間距離を取る必要があることを加味し、【落とし主6:被害車両4】の過失の割合が定められています。
落とし主が追い越し車線を走行中だった、被害車両が速度超過していたなど事故当時の状況で、それぞれ過失の割合が変わることもあります。
過失の割合を大きくされないためにも、制限速度を守り、適切な車間距離を保って走行する必要があります。
落とし主は誰か不明なケース
落とし主が分からない荷物に衝突したり踏んでしまった場合は、自損事故と見なされてしまいます。自分の加入している車両保険から補償を受けて修理をすることになります。
自損事故であっても、道路上の事故であれば警察に連絡をする必要があります。警察に連絡するのは義務ですし、事故が起こったことの証拠となる「交通事故証明書」も作成されます。
これは保険を申請するときに必要になります。
落下物が原因で別の事故を引き起こした場合
落下物にぶつかったことが原因で別の事故を引き起こした場合では、過失の割合はどうなるでしょうか。
落とし主は誰か分かっているケース
高速道路においては、上述した通り、基本的に【落とし主6:被害車両4】の割合で過失を負うことになります。一般道においてはこの過失の割合は適用されず、落とし主の責任が高速道路ほど大きく問われていません。
実際に、2002年に福岡県の一般道路で起きた事故ではこんな判決が出ています。
夜間、3台の車両が走行中、先頭の大型トラックが積み荷の荷崩れを起こし、積み荷を落下させました。それに気づいた後続の乗用車が急停止し、3台目の大型貨物車が乗用車に追突した事故が発生しました。追突した大型貨物車に7割、積み荷を落下させた大型トラックに3割の過失が認定されています。
落とし主は誰か不明なケース
落とし主が不明の場合、落下物にぶつかってしまった車の過失になることが多いようです。
落下物による事故に巻き込まれないためにできることは?
落下物による事故では、自分が事故のきっかけを作ったわけでなくても、大きな過失を負うこともあります。そのため、事故に巻き込まれないようにするための対策を知っておいたほうがよさそうです。
車間距離をあけて運転する
自分のすぐ前を走る先行者から落下物があった場合、それに気付き危険を回避するためには、それなりの車間距離が必要になります。特に高速道路ではかなり余裕を持っていないと落下物を避けることはできません。
スピードは出しすぎない
制限速度を越えたスピードを出している場合、安全に減速したり、停車するのが難しい場合があります。制限速度を守って運転していれば、落下物への衝突・乗り上げを早めに回避できるうえ、速度超過による過失を負う必要がありません。
安全を確認して路肩・非常駐車帯に停車する
先行車から落下物があった場合、それに衝突しそうになりとっさに急ハンドルや急ブレーキを踏むのは非常に危険です。
急ハンドルを切れば、対向車や歩行者に衝突する可能性があり、複数車線あるところでは別車線の車に衝突する可能性があります。また、急ブレーキを踏めば、後続車に追突される恐れがあります。
落下物に気付いたらすぐにハザードランプを点灯し、周囲の車へ異変を知らせたうえで減速します。落下物を避けて車線変更できる場合は変更し、やむをえず停車しなければならない場合は路肩など安全な場所を探して停車します。
高速道路で停車することは非常に危険なので、特に注意が必要です。非常駐車帯があればそこに停車し、路肩に停める場合は発煙筒を焚き、ガードレールの外側など少しでも危険が回避できそうな場所から通報しましょう。
まとめ
落下物を回避しやすい一般道では、2次的な事故時に、落とし主よりも落下物の影響により事故を起こした車の過失が大きく問われることがわかりました。
また、高速道路では、落下物を避けられるように準備する必要があることから、落下物にぶつかった車の過失がそもそも大きく設定されることが分かりました。
乗用車に乗っている多くのドライバーは、落下物の落とし主になるよりも、落下物にぶつかる確率のほうが高いと思います。
歩行者や自転車、他の走行車両だけでなく、いつ落下物に遭遇しても対処できる、気持ちのゆとりと、対応できる走行スピードを保って運転する必要がありそうです。