交通事故においては、通常、加害者の保険会社が窓口になる
交通事故の賠償責任を加害者に裁判において追求する際に、問題となるのが、加害者側からの謝罪です。被害者としては法律以前に感情として、加害者にはキチンと誠意をもって謝罪してほしいという気持ちは、当然にあるでしょう。
通常ですと加害者は人として、菓子折り等の見舞い品を携え、被害者へ謝罪に向かいます。しかしなかには、そうした常識的な行為も行わない人がいます。
その理由は、加害者が良心を欠いた人物であるため、そんな当たり前のこともしようとしないことがあります。ですが、たとえ加害者が常識的な人物であろうと、示談前に被害者のもとへ謝罪にも来ないケースもありえます。
現在では加害者側の窓口を、加害者が加入している保険会社が担当する場合が多いからです。事故後においては、加害者が被害者に対し、本格的に自分の非を認めるような謝罪をしてしまえば、示談や裁判において決定的に不利になることもあるからです。
まず保険会社が加害者に、「被害者のところへ謝罪に行くな」ということは、ほとんどないと言っていいでしょう。しかし保険会社は加害者に、以下のように忠言することもあります。
「事故の法律問題については、今後は私どもが窓口になります。お客様は指示通りの対応をして下されば、直接に謝罪など行かなくても、問題はございません。」
加害者の態度の悪さは、損害補償の対象となるか?
そうした場合、アタマで状況を理解していても、気持ちが収まらないということもあるでしょう。しかしここでは、冷静を保つことが重要となります。
謝罪のない加害者に対し、その態度自体に民事的な責任を問えるかといえば、これは微妙なところです。というのは法律上、加害者は被害者に謝罪をしなければいけないという決まりはないからです。
よって謝罪がなされるかどうかは、加害者の良心や判断に委ねられます。ただし事故後における加害者の態度があまりに酷ければ、裁判になった際に、慰謝料の増額も図れます。
それは具体的には、以下のようなケースです。
- 事故時の証拠を、意図的に隠滅しようとする。
- 被害者に対し、脅すような態度を取る。
- 虚偽の証言をし、自分の責任を曖昧にしようと図る。
- 死亡事故の場合、被害者の葬儀にも参列しない。
- 事故直後に、自分が加害者であるにもかかわらず、被害者に対して罵倒するような態度を取った。
少しでも多くの賠償を勝ち取ること
どれだけ加害者に対して腹を立てようと、被害者が加害者から引き出せるものはただ一点、賠償金のみです。たとえ無理やりに加害者を謝罪させたとしても、失われたものは帰ってきません。
また加害者の謝罪とは、本当の誠意によるものばかりとは限らず、自己保身のために被害者に土下座をするということも、ありえるでしょう。ならば交通事故の被害者になってしまったら、なすべきことは一つです。
それは担当弁護士とよく相談し、少しでも高額の賠償金を確保することだけです。その観点に立てば、もし加害者からの謝罪がない、もしくは加害者の態度が悪いということであれば、それはむしろ裁判の際において、プラスに作用します。
加害者も態度いかんにより、裁判で自分に不利な判定が出ることもありえるからです。逆に述べれば、原告である被害者には有利ともとれます。
また優秀な弁護士ほど、加害者の嘘偽りを見破ることができ、かつそこから逆算し、こちらに有利な補償を引き出せます。誠意に欠けた加害者に出会ってしまえば、ズルズルと示談を重ねるより、早々に弁護士に任せ、裁判に持っていったほうが好都合だと言えます。
被害者が加害者と面会するとき
次に、加害者が真摯な態度で謝罪に訪れたときのケースを、考えてみます。これは加害者がキチンと正装し、菓子折りや花束等を持って、こちらのお見舞いに来た場合です。
このときの加害者は、態度や言動も誠実であり、心から反省している様子です。こうしたときの対応は、どうすればいいでしょう?
それは、加害者の謝罪の言葉や誠意を受け入れても、安易に相手を許すような口約束はしないことです。もちろんその場合、あなたが本気で加害者を許し、賠償も放棄するくらいの気持ちでいるのなら、それで問題はありません。
しかしあなたはまだ、加害者の過失により失われたものを補填されておらず、それをあきらめきれないでいるならば、一時的な感情に流されるべきではありません。いくら加害者の態度が立派であれ、それはひょっとして、保険会社のアドバイスに従って行動していることも考えられるからです。
弁護士や保険会社を介せず、被害者と加害者の当事者間のみで込み入った話をするのは危険です。その際に言質を取られてしまえば、後々、賠償請求において不利になる可能性が高いからです。
そうなれば当然に、失われたものは一生返ってこなくなることもありえます。ですから被害者が加害者に会うときは、たとえ相手の謝罪を受け入れても、具体的な賠償の話は避けるべきです。
また加害者がアポなしで来た場合はともかく、相手の来訪日時がはっきりとわかっているならば、事前に弁護士に相談して、アドバイスをもらうのがいいでしょう。してもいい話題と、避けるべきトピックとをしっかりと教えてもらいましょう。
加えて、事故の責任がこちらに若干ある場合でも、こちらからの謝罪は厳禁です。そうすると後の示談や裁判で、致命的な影響をおよぼしかねません。
どうしても気持ちが収まらないときは?
もし示談が成立しても、加害者を許せない気持ちが残れば、どうすればいいか?これはやはり、あきらめるしかありません。
法律とは、個々のケースにおける特殊性により適用法が変わってきますので、後から加害者を民事的、あるいは刑事的に罰することは難しくなるからです。
だからこそ示談中や裁判中は、極力、感情を抑えて、信用できる弁護士にまかせ、最善の結果を得られるよう努力するほかありません。
そもそも加害者を「許せない」という気持ちになるのは、自分が失ったものが充分に補填されていない、あるいは加害者に誠意が感じられないという場合においてです。
賠償における最終的な結審が出るまでは、ともかく冷静を保つほかないのです。でなければ後々、大きな後悔を残すことになるだろうからです。
交通事故に強い弁護士ほど、そうした加害者の反省や誠意のなさや、事故時、あるいは事故後における対応のマズさを突いて、被害者に有利な補償を引き出せます。つまり被害者の「相手に復讐したい」という思いも、示談や裁判をうまく運べば、ある程度は満たすことができるのです。
よって、示談中に冷静さを保たなければならない重要性も、よく見えてきます。
そして、平成20年12月より刑事事件に限り、「被害者参加制度」というものができました。これまで事故の当事者でありながら、弁護士等、法律の専門家の手に委ねられていた刑事裁判において、被害者やその家族が法廷で意見を述べることが可能になったのです。
ただしこの場合は、被害者死亡等、一定以上の重大な結果を生んだ事故においてのみです。
交通事故でもっとも重要なのは、正しい法律知識と法の運用法
たとえ加害者が誠実であろうとそうでなかろうと、反省していようといまいと、被害者が加害者から補償されるのは、金銭しかありません。その金銭を、加害者や加害者の保険会社から最大限に引き出すにあたって必要なものは、適切な法律の知識とその使用法です。
そうした観点から、交通事故に遭った被害者が最初にすべき点は、交通事故に強い弁護士を見つけ、その後の対応を任せることにあるといえるでしょう。