近年、「ながらスマホ」が原因の交通事故が増加しています。交通事故における「ながらスマホ」とは、運転しながらスマホ(スマートフォン)を操作することをいいます。
大事故を起こしかねない「ながらスマホ」ですが、現状はそれほど罰則が厳しいものではありません。過失割合に関しても、考慮されない可能性があります。
相手の「ながらスマホ」が原因で交通事故にあったにもかかわらず、過失割合が修正されなければ納得いくはずがありません。
この記事では、「ながらスマホ」「歩きスマホ」が事故原因の過失割合について詳しく解説します。
さらに、「保険会社が提示した過失割合に納得できない」「相手がながらスマホ・歩きスマホを認めない」場合の対処法についても紹介していきます。
運転中の「ながらスマホ」の危険性について
スマホの普及にしたがって、運転中にスマホを利用する「ながらスマホ」という行為が増えています。
スマホを見ながらの運転は、周囲に対する安全意識が低下することで、大事故を招く危険性が高くなります。
運転中のスマホの使用は交通事故を起こしやすい
スマホは「携帯電話の使用」よりも、交通事故を招きやすいと言われています。なぜなのでしょうか。
スマホは携帯電話と違い、電話ではなく「画面を注視する使い方」が多くなっています。実際、スマホによる事故原因は、メール(LINE)、動画、ゲームなどを見ていたことで起こる「画像目的使用」が半数近くを占めています。
そもそも運転中にスマホ画面を見るというのは「よそ見運転」であり、事故を引き起こす可能性が高くなるのです。
運転中の「ながらスマホ」事故の増加
政府の統計によると、自動車が原因の交通事故は10年以上減少し続けています。
交通事故の数が減少しているにもかかわらず、「ながらスマホ」による事故は、ここ5年の間で1,280件から1,999件と、実に1.6倍も増加しているのです。
「ながらスマホ」は道路交通法違反
そもそも道路交通法では、交通事故を起こした場合のみならず、
- スマホ等の無線通話装置で通話すること
- スマホやカーナビ等画像表示用装置を注視すること
といった「運転中のスマホの使用自体」を禁止しています。
罰則や反則金に関しては、それぞれ以下のようになっています。
スマホ使用した場合 | 事故を起こした場合 | |
---|---|---|
罰則 | 5万円以下の罰金 | 3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金 |
反則金 | 大型7千円、普通6千円、二輪6千円、原付5千円 | 大型12千円、普通9千円、二輪7千円、原付6千円 |
違反点数 | 1点 | 2点 |
「罰則は刑事罰」、「反則金は行政刑罰」にあたります。原則として反則金を支払えば、罰金を支払う必要はありません。
なお、自転車についても、スマホを使用しながらの運転は道路交通法で禁止されています。違反した場合には「5万円以下の罰金」が科せられることがあります。
「ながらスマホ」交通事故の過失割合
道路交通法違反である「ながらスマホ」をしていて事故を起こせば、過失割合に修正が加えられます。
実際の交通事故では、どの程度影響してくるのでしょうか。
「ながらスマホ」運転者に加算される過失割合
交通事故の過失割合は、事故のパターン(類型)ごとに過去の判例を基準に決められます。判例を基本として、個別のケースに合わせて修正をおこなっていくのです。
「ながらスマホ」が原因の交通事故の場合も同様です。判例を基本としたうえで「スマホを使用していた運転者」に対し過失を加算していきます。
これまでの判例を見ると、「ながらスマホ」の運転者に対しては「10%の過失」が加算されるケースが多くなっています。
以下の表は、それぞれのケースごとに「どのように過失割合が修正されるのか」を示したものです。状況としては、すべて「信号機のない同程度の道幅の交差点に進入した」際に起こった事故とします。
車両別のケース | 基本過失割合 | 修正要素 | 修正後の過失割合 |
---|---|---|---|
「車X(左方車)」と「車Y(右方車)」が衝突 | X:Y=40:60 | 車Xが「ながらスマホ」 | X:Y=50:50 |
「二輪車X(左方車)」と「車Y(右方車)」が衝突 | X:Y=30:70 | 二輪車Xが「ながらスマホ」 | X:Y=40:60 |
「自転車X(左方車)」と「車Y(右方車)」が衝突 | X:Y=20:80 | 自転車Xが「ながらスマホ」 | X:Y=30:70 |
道路交通法では互いの条件が一緒に場合には、「左側の車を優先(左方優先)すること」を定めています。そのため、「右側にいる車両」に対して大きい過失が認められることになるのです。
「歩行者」対「車」の事故の場合、歩行者に過失はない?
「歩行者」と「車」が事故に遭った場合、原則として歩行者に過失はなく「車の過失が100%」となります。
しかし、以下のようなケースでは歩行者の過失が認められます。
- 赤信号にもかかわらず横断していた
- 急に歩行者が道路に飛び出した
- 交通量の多い道路で無理に横断しようとした など
このように、歩行者側に「著しい過失」が認められれば、歩行者にも過失割合が認定されます。ケースによっては、「歩きスマホ」が過失として認められる可能性もあります。
「歩きスマホ」対「自転車」の事故における2つの判断
2014年、「歩きスマホ」対「自転車」の事故において、ほぼ同じ事故状況にもかかわらず、それぞれの裁判所で異なる判断が出されました。
一方では、「歩きスマホ」の前方不注意を理由に、歩行者に「10%」の過失を認めました。しかし他方では、「歩行者に過失相殺が適用される余地はない」として「歩きスマホ」の過失割合を認めませんでした。
「ながらスマホ」「歩きスマホ」は比較的新しい事故原因と言えます。そのため、判例が確立されておらず、「スマホ使用者」の過失についてはケースバイケースとなっています。
今後もスマホが原因の事故が増えるようであれば、罰則や過失割合が変更されていくでしょう。
「ながらスマホ」の過失割合に納得できない時は弁護士に相談を
「ながらスマホ」「歩きスマホ」が原因で事故が起こった場合には、スマホ使用者側に「10%」の過失が加算されるケースが多くなっています。
しかし、この「10%」が必ず加算されるとは限りません。
過失割合は様々な事情が考慮される
これまで紹介したケースごとの過失割合は、もっとも単純化したものです。
実際の事故では、「様々な事情」を考慮して過失割合が決定されます。そのため、事故状況から「あなたの側に落ち度がある」と判断されれば、相手の「ながらスマホ」が過失割合に考慮されないこともありえます。
相手が「ながらスマホ」を認めないケースも多い
相手の「ながらスマホ」や「歩きスマホ」が原因で事故が起こったとしても、素直に認めるケースばかりではありません。
たとえば、事故が多くあと1点で免停になってしまうドライバーであれば、「スマホを見ていなかった」と嘘をつく人もいるでしょう。ドライブレコーダー等の証拠がなければ、「ながらスマホ」を立証することは簡単ではないのです。
弁護士は必ずあなたの力になってくれます
「保険会社の過失割合に納得いかない」「相手がスマホ使用を認めない」といったケースでは、すぐに弁護士に相談してください。
弁護士に相談することで、保険会社の過失割合が「適切なのか」を徹底的に調べてくれます。また、弁護士なら「ながらスマホ」「歩きスマホ」を認めない相手でも、実況見分や事故現場を調査することで「証拠」を探し出してくれるでしょう。