「保険金請求権」とは、交通事故を起こした当事者が、保険会社へ保険金を請求する権利のことです。
保険金請求権には、消滅時効が設けられているため注意が必要です。なぜなら、時効が過ぎてしまうと保険金の請求ができなくなってしまうからです。
そのような事態に陥らないためには、消滅時効の起算点を理解する必要があります。
この記事では、
・保険金請求権に関する基礎知識
・保険金請求権の消滅時効の起算点
・保険金請求権の消滅時効を中断する方法
以上3点を解説しております。保険金請求権について疑問や悩みを持たれている方のご参考になれば幸いです。
保険金請求権とは
交通事故を起こし、なんらかの損害が発生した場合、事故の当事者は保険会社に対して保険金を請求することができます。この、加入する保険会社に対して保険金を請求する権利のことを「保険金請求権」といいます。
事故の当事者は、保険金請求権を行使することによって保険会社から保険金を受け取り、事故の被害者もしくは自分が被った損害を補填することが可能となります。
例えば、発生した事故が「人身事故」かつ「加害者が任意保険に加入していた」場合においては、加害者は自分が加入している保険会社へ保険金を請求することで、被害者へに対して損害賠償を行うことが可能となるのです。
または、発生した事故が「自損事故(加害者が存在しない事故)」の場合においては、自賠責保険は使えませんが、事故を起こした当事者が「自損事故を補償する任意保険」に加入していた場合、運転者本人は自分の加入する保険会社へ保険金を請求することによって、自らの損害を補填することができるのです。
したがって、保険金請求権は事故の加害者・被害者を問わず、当事者が事故で被った損害を補償するための重要な権利となるのです。
保険金請求権は誰が行使できるのか
保険金請求権は、交通事故の被害者のみしか行使できないと思われている方もいますが、それは誤りです。保険金の請求は、事故を起こした当事者が、保険金を請求できる対象に該当すれば、加害者・被害者問わずに権利を行使することができます。
例えば、加害者が被害者に怪我の治療費などを立て替えた後に、自分の自賠責保険に立て替えた分を後から請求する場合や、被害者が自分の入っている任意保険に傷害保険などを請求する場合もあるためです。
また、先述したように加害者が存在しない「自損事故」においては、自らが加入する任意保険に保険金を請求できる場合があります。
したがって、保険金請求権とは「事故の当事者が保険金を保険会社へ請求する権利」であると覚えておいてください。
「保険金請求権」と「損害賠償請求権」の違い
保険金請求権と同じような言葉に、「損害賠償請求権」があります。この2つの言葉は、同じ意味で使われることがありますが、厳密には異なります。
先述したように、保険金請求権とはあくまで保険金を保険会社へ請求する権利のことを指します。
一方で、損害賠償請求権とは、交通事故などで被った損害の賠償を、被害者が加害者側に対して請求する権利のことを指します。
加害者がいない自損事故の場合を例にすると、自損事故は自分一人で起こしたものであるため、賠償請求を行う相手は存在しません。したがって、自損事故の被害者は損害賠償請求ではなく保険金請求をすることになるのです。
保険金請求権と損害賠償請求権の消滅時効はどちらとも3年であるため、被害者の方が意味の違いについてそこまで敏感になる必要はありませんが、性質が異なるということは覚えておくと良いでしょう。
保険金請求権の消滅時効の起算点とは
保険金請求権には、請求を行う対象が「自賠責保険」か「任意保険」を問わず、請求を行使できる期限が設けられています。その期限のことを保険金請求権の「消滅時効」と呼びます。
そして、消滅時効の「起算点」とは消滅時効がいつの時点から始まるのかを表すものです。
例外をのぞけば、消滅事故の期間は3年ですが、時効がスタートする起算点は保険の条件によって異なります。
もし、消滅時効を過ぎてしまうと、事故の当事者は保険会社から保険金を受け取ることができなくなってしまうのです。
その理由はわかりやすく、事故の時間が経過するにつれて事故調査がより難しくなり、適切かつ迅速な支払いができなくなるおそれがあるためです。
ただし、自動車保険は各保険金によって請求可能な時期が異なります。各保険の請求可能な時期と時効の起算点は以下のとおりです。
賠償責任保険の消滅時効の起算点
「賠償責任保険」とは、被保険者が他人に損害を与え、損害賠償を支払う義務が生じた場合に、被保険者が保険会社へ保険金を請求するものです。人身事故によって相手に怪我をさせた場合などがこれにあたります。
賠償責任保険の起算点は、加害者(被保険者)に対して裁判上の支払いを命ずる判決が確定したときや、裁判上の和解・もしくは当事者間での示談などによって損害賠償支払い義務が確定したときが、時効の起算点になります。
なお、自賠責保険に対しては請求を行う場合は、被害者が自ら請求を行う「被害者請求」を行うこともできます。
被害者請求では、怪我を負った場合は事故にあった翌日、後遺症が残った場合は症状固定をした翌日が消滅時効の起算点となります。
自損傷害保険・無保険車傷害保険などの死亡保険金の起算点
「自損傷害保険」とは、加害者が存在しない自損事故の補償を行うために加入する保険のことです。
「無保険車傷害保険」とは、加害者側が自動車保険に加入していないなどの理由により、充分な補償が受け取れない場合を想定して加入する保険のことです。
このような保険は、被保険者が死亡した際に請求可能な保険ですから、被保険者が死亡したときが消滅時効の起算点になります。
車両保険金の消滅時効の起算点
「車両保険金」とは、被保険者が事故によって自分の自動車に損害が出た場合の損害を補填するために加入する保険のことです。
車両保険金は、損害が発生したときが消滅時効の起算点となります。
消滅時効を中断する方法(時効中断事由)
消滅時効は、「裁判上の請求」「催告」「差押え・仮差押え・仮処分」「承認」などの行為によって中断(リセット)することが認められています。
これを、「時効中断事由」といいます。それぞれを以下で解説します。
裁判上の請求
裁判上の請求とは、相手方に対して損害賠償金を支払えと訴えを起こすことです。裁判所へ訴状を提出することによって行使します(民法149条)。
“第百四十九条 裁判上の請求は、訴えの却下又は取下げの場合には、時効の中断の効力を生じない。”
なお、裁判上の請求の効果は、訴状を裁判所に提出した時点で生じ、さらに裁判上の請求によって中断した時効は、裁判が確定したときから新たにその進行を始めることになります。(民法157条2項)
“第百五十七条
2 裁判上の請求によって中断した時効は、裁判が確定した時から、新たにその進行を始める。”
催告
催告とは、相手方に対して損害賠償(保険金)を支払えと「裁判を用いず」請求することです。
通常は、内容証明郵便などで相手方に催告を行います。
ただし、催告にも時効中断の効力は認められていますが、その後6ヶ月以内に裁判手続きをしない場合には時効中断の効力は失われるため注意が必要です。
さらに、一度催告をしたあとに、さらに6ヶ月以内に再催告した場合にも時効中断の効力は生じないことになっています。
承認
承認とは、加害者が損害賠償支払い義務のあることを認めることを指します。
例えば、加害者が治療費や休業損害といった損害額の一部を支払った場合や、今お金がないから少し待ってほしいとの申し出が遭った場合には、承認にあたるとされています。
時効中断書の提出
自賠責保険・共済組合に対する時効の中断は、「時効中断申請書」の提出によって行うことができます。
「時効中断申請書」は、自賠責保険会社・共済組合にて受け取ることができます。時効は、自賠責保険会社・共済組合が申請書を受領した日に時効は中断し、翌日から新たな時効が進行します。
時効中断書の提出は、被害者請求を行う場合に準備の時間がかかりそうなときや、被害者請求後の異議申し立て手続きまでに時間がかかってしまいそうな際に行うとよいでしょう。
保険金請求権の消滅時効に不安がある場合は弁護士に相談を
保険金請求権は損害賠償請求権と混同してしまうことがよくあるため、法律の知識に乏しい事故の当事者が全てを1からから理解することは時間も労力もかかるため効率的とは言えません。
そのため、保険金請求権の消滅時効に不安がある方は、交通事故に詳しい弁護士に相談すると良いでしょう。
弁護士に相談することで、「保険金請求権の時効の確認」「賠償請求が正しく行えているかの確認」「複雑な請求手続の代行」といったサポートを受けることができます。
気づかないうちに保険金の時効が過ぎてしまっては、保険金が受け取れないこともあり得ますので、交通事故を専門とする実績のある弁護士に相談してみませんか。