- 交通事故の同乗者の責任
- 同乗者は誰に責任を問えるのか
- 各種保険が適用されるための条件
交通事故が発生すると、加害者には損害賠償などの責任が発生し、逆に被害者は損害賠償を請求することができます。そして、この関係はドライバーだけに発生するものではなく、同乗者がいた場合には同乗者にも発生することがあります。
この記事では、交通事故の際の同乗者の責任、適用される保険について説明します。
同乗者にも責任が問われることがある
交通事故の責任は、基本的に加害車両を運転していたドライバーが負うことになります。しかし、例外的に、事故の原因を同乗者が作り出したと言えるときには同乗者にも責任を問われることがあります。
同乗者が責任を負う可能性のあるケースには次のような例があります。
- ドライバーに話しかけたりして邪魔をした場合
- ドライバーを煽って危険運転をさせた場合
- ドライバーの飲酒運転を見過ごした場合
- ドライバーが無免許運転であることを知っているのにそれを見過ごした場合
- ドライバーを補助して安全確認する義務を怠った場合
- 部下や後輩に無理やり運転させた場合
- その他同乗者の故意・過失が事故の原因と認められる場合
ドライバーは、通常強制加入保険に入っており、さらに多くの場合任意保険にも入っているので、交通事故を起こしても、保険金によって損害賠償金を支払うことができます。
ところが、同乗者は運転者ではないので、保険を使うことができません。その結果、多額の賠償金を自費で負担しなければならなくなる恐れもあります。
同乗者が被害を受けたときの補償
交通事故が起こると、同乗者も怪我を負ったりしてしまうことがあります。この場合、事故を起こした当事者である、事故相手と自車のドライバーの両者に、民法上の不法行為に基づく損害賠償を請求できる可能性があります。
具体的な請求関係は次のようになります。
事故相手に損害賠償請求できる場合
自分が同乗している車のドライバーに交通事故発生の過失が全くないと認められた場合、同乗者は事故相手のみに損害賠償請求することができます。例えば、赤信号などで停車しているときに、信号無視などで相手に突っ込まれたケースなどがあります。
同乗する車のドライバーに損害賠償請求できる場合
同乗していた車のドライバーに損害賠償請求できる場合は大きく分けて2つあります。
1つ目は、事故相手に交通事故発生の過失が全くないと認められた場合です。例えば、停車している車に同乗する車が一方的に追突してしまったケースや、交差点で信号通りに通行している車に対して、同乗する車がルールを無視したことで衝突してしまったケースなどがあります。
2つ目は、同乗する車が単独で事故を起こした場合です。例えば、ハンドルの操作ミスでガードレールに衝突してしまったケースなどがあります。この時は、事故相手が存在しないので、自車のドライバーのみに責任を問うことができます。
事故相手と同乗する車のドライバーに損害賠償請求できる場合
事故相手と同乗する車のドライバーの双方に事故の原因である過失があると認められた場合、両方に損害賠償請求をすることができます。例えば、事故相手と同乗する車のドライバーがどちらも信号無視をしていたり、どちらもスピード違反をしていたりする場合が考えられます。
そして、この場合、被害者は事故相手と自車のドライバーのどちらにいくら請求するのかを自由に決めることができるようになっています。なぜかというと、この場合の加害者は「共同不法行為」の関係となり、損害賠償責任は法的には「不真正連帯責任」になっているからです。
不真正連帯責任が課されると、債務者はたとえ請求額全額を自分だけに請求されても拒むことができません。つまり一人で賠償額全額の負担を負うことになっているのです。この制度は、加害者のいずれかが無資力だった時のリスクを被害者に負わせず、加害者同士で処理させるための制度です。
好意同情減額が適用されることがある
好意同情減額とは、運転手の好意によって無償で同乗させてもらっているときに事故にあった場合、その損害賠償額を減額する制度のことです。この制度は、あくまで運転手の好意で乗せてもらっている以上、事故が起きた時の負担は2人で分担するべきだという公平の理念から認められています。
ただし、この制度が主に使われていたのは、高度経済成長期でまだ車の価値が一般的に高かった頃です。当時は車に乗れることは非常に価値があってレアだったので、同乗させてもらったのならばそれだけのリスクを負うべきであるという考え方が流布していたのです。
ですから、多くの人が車を持てるようになった現代では好意同乗減額は適用されにくい傾向にあります。適用されるのは、同乗者が運転手の邪魔をしたり、運転手の危険運転を見過ごしたりとするなど、同乗者に積極的な責任が認められる場合に限られています。
同乗者にも保険が適用される
同乗者が交通事故にあった場合、事故相手との関係では保険が適用され、その損害賠償は保険による補償を受けることができる可能性があります。同様に、自車のドライバーからの損害賠償にも保険が適用される可能性があります。
ただし、保険が適用されるためには、特に任意保険において、一定の条件を満たすことが必要な場合があるので、以下で保険の種類ごとに説明します。
自賠責保険
自賠責保険は自動車賠償責任保険のことで、車を運転する人は全て加入することが法律で義務付けられている強制加入保険です。この自賠責保険は、特に条件なく同乗者にも適用されます。何かドライバーとの特別な関係性や特別な資格などは必要ありません。
任意保険(対人賠償責任保険・人身傷害保険)
任意保険の場合、事故相手からの損害賠償に関しては無条件で保険が適用されます。一方で、自車のドライバーからの損害賠償に関しては、そのドライバーと同乗者の関係性によって保険が適用されるか否かが左右されます。
対人賠償責任保険は、自動車運転による事故によって他人を死傷させてしまったときに、被害者に対して支払われる保険です。対人賠償責任保険は、「他人」に対する加害がされたときに適用される保険なので、同乗者が「親・子供・配偶者」だったときには保険による補償を受けることができません。
一方で、同乗者が兄弟姉妹や法律婚をしていないパートナーであるような場合には適用されうるので注意が必要です。
人身傷害保険は、交通事故によって被害者が負った後遺障害による逸失利益、怪我の治療費、入院費、投薬費などを補償するための保険です。人身傷害保険は、同乗者とドライバーの関係性によらず常に適用される可能性があります。
搭乗者傷害保険
搭乗者傷害保険は、事故にあった全ての人を対象としている保険です。ですから、加入していれば、ドライバーはもちろんのこと、同乗者にも保険が適用されます。その他の条件などは基本的にありません。
ただし、保険会社は、できるだけ保険金の支払いをしたくないために、搭乗者傷害保険による支払いについて消極的で、あまり話題に上げないことがあります。搭乗者傷害保険の適用を受けることができるのに受けられないのは損なので、事故にあったときは、自分が加入して高い中に関わらず、搭乗者傷害保険が適用されるかについて忘れずに確認するようにしましょう。
まとめ
同乗者として車に乗っている時に交通事故に遭った場合、同乗者に過失があると認められると責任を負うことがあります。また、交通事故の被害者になったときは加害者に対して損害賠償を請求することができます。
しかし、上で述べた通り、誰に請求すればいいのか、そしてどのような条件を満たせば保険からの補償を受けることができるのか、については複雑であり、いざ事故の当事者になったとなると戸惑ってしまうことが多いでしょう。
弁護士は保険会社との交渉や事故手続きなどをスムーズに行なってくれるので安心です。そのため、交通事故に遭った時には、事故事件に強い弁護士に相談するのがおすすめです。