交通事故による手指や上肢(肩・肘・手首)の後遺障害と等級

交通事故による手指や上肢の後遺障害と等級

交通事故の後遺障害の中でも手や腕に後遺障害が残ると、日常生活や仕事に大きな影響が出ますし、不自由を感じる程度も大きいです。手や腕の後遺障害には、どのような種類のものがあって、どのような場合に認められるのでしょうか?

今回は、交通事故で手の後遺障害が認められる症状と請求できる賠償金について解説します。

1.上肢の後遺障害の種類

交通事故で手や腕に関する後遺障害という場合、上肢(じょうし)の後遺障害と手指の後遺障害が考えられます。上肢とは、肩から下の腕の部分です。ただ、指については別の後遺障害認定基準が適用されます。

上肢の後遺障害には、「欠損障害」「機能障害」「変形障害」の3種類があります。

欠損障害とは、腕の一部がなくなる後遺障害です。機能障害とは、腕自体は残っているけれども、その機能が失われる場合の後遺障害です。変形障害とは、骨の癒合不全(ゆごうふぜん)などによって、上肢の関節が変形してしまうケースなどです。

それぞれの程度によって、異なる後遺障害の等級認定が行われます。

2.手指の後遺障害の種類

手指とは手の指のことですが、手指の後遺障害は、上肢の後遺障害とは別に後遺障害認定基準が設けられています。具体的には、手指の欠損障害と手指の機能障害があります。

手指の欠損障害とは、手指が物理的になくなってしまうことであり、手指の機能障害とは、手指は残っていても動かせないなどの事情により、手指の機能が失われてしまうことです。

手指の後遺障害が残ったケースでも、その内容や程度によって異なる等級の後遺障害が認定されます。

3.上肢の欠損障害

上肢欠損障害とは、上肢の一部または全部がなくなる場合です。つまり、腕の一部や全部が物理的になくなってしまった場合のことを言います。腕のどの部分が欠損したかによって、後遺障害の等級が異なります。

腕には、肩の関節、肘の関節、手首の関節の3大関節がありますが、肘から上の部分がなくなった場合の後遺障害が最も重く、次が手関節以上で腕が失われた場合です。両腕が欠損すると、片腕の場合よりも後遺障害の等級が上がります。まとめると、以下の表の通りとなります。

上肢の欠損による後遺障害
後遺障害等級 後遺障害の内容
第1級3号 両上肢をひじ関節以上で失ったもの
第2級3号 両上肢を手関節以上で失ったもの
第4級4号 1上肢をひじ関節以上で失ったもの
第5級4号 1上肢を手関節以上で失ったもの

「上肢をひじ関節以上で失ったもの」という場合は、次のいずれかのケースです。

  • 肩関節部分で、肩甲骨と上腕骨が離断した
  • 肩関節とひじ関節の間の部分で上肢が切断された
  • ひじ関節部分で、上腕骨と橈骨・尺骨が離断した

次に「上肢を手関節以上で失ったもの」という場合は、次のいずれかのケースです。

  • ひじ関節と手関節の間の部分で上肢が切断された
  • 手関節部分で、橈骨・尺骨と手根骨が離断した

4.上肢の機能障害

次に、上肢の機能障害のケースを見てみましょう。これは、上肢そのものは残っているけれども、その機能が低下したり失われたりしたケースです。

機能が失われた部分や程度によって、後遺障害の等級が変わります。上肢機能障害で認められる後遺障害は、以下の通りです。

後遺障害等級 後遺障害の内容
第1級4号 両上肢の用を全廃したもの
第5級6号 1上肢の用を全廃したもの
第6級6号 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
第8級6号 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
第10級10号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
第12級6号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

(1)上肢の用を全廃したもの

「上肢の用を廃したもの」という場合は、上肢の3大関節がすべて強直してしまい、手指の障害も起こっているケースです。上腕神経叢が完全に麻痺したケースも含みます。

(2)上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの

「関節の用を廃したもの」という場合、次のいずれかに該当するケースです。

  • 1つの関節が強直した
  • 関節の完全弛緩性麻痺、またはそれに近い状態にある(障害のある側の関節の可動域が健常な側の可動域の10%以下となった場合)
  • 人工関節・人工骨頭を入れた関節の可動域が健常な側の可動域の2分の1以下になった

(3)上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

関節の機能に著しい障害を残すものという場合、次のいずれかに該当するケースです。

  • 関節の可動域が、健常な側の可動域の2分の1以下になった
  • 人工関節・人工骨頭を入れた関節で、可動域が健常な側の2分の1以下になっていない

(4)関節の機能に障害を残すもの

関節の機能に障害を残すものという場合は、障害のある側の関節の可動域が健常な側の可動域の4分の3以下になっているケースです。

5.上肢の変形障害

次に、上肢変形障害について解説します。上肢変形障害とは、交通事故によって偽関節(ぎかんせつ)や骨の変形が起こったり、これによって著しい運動障害が起こったりするケースです。

以下のようなケースで認められます。

上肢変形障害の後遺障害
後遺障害等級 後遺障害の内容
第7級9号 1上肢に偽関節を残し,著しい運動障害を残すもの
第8級8号 1上肢に偽関節を残すもの
第12級8号 長管骨に変形を残すもの

(1)上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの

偽関節を残し、著しい運動障害を残すものという場合は、次のいずれか該当するケースです。

  • 上腕骨の骨幹部や骨幹端部に骨の癒合不全が残り、常に硬性の補装具が必要になった場合
  • 橈骨と尺骨の両方の骨幹部などに癒合不全が残り、常に硬性の補装具が必要になった場合

(2)上肢に偽関節を残すもの

「上肢に偽関節を残すもの」という場合は、次のいずれかに該当するケースです。

  • 上腕骨の骨幹部などに癒合不全が残った場合
  • 橈骨と尺骨の両方の骨幹部などの部分に癒合不全を残った場合
  • 橈骨か尺骨のいずれかの骨幹部などの部分に癒合不全が残り、ときどき硬性の補装具が必要になったケース

(3)長管骨に変形を残すもの

長管骨に変形を残すものという場合は、次のいずれかに該当するケースです。

  • 上腕骨に変形が残ったケース、または橈骨と尺骨の両方に変形が残ったケースのいずれかに該当して、かつ外部からわかる程度に不正癒合しているもの
  • 上腕骨、橈骨か尺骨の骨端部に癒合不全が残ったケース
  • 橈骨または尺骨の骨幹部などの部分に癒合不全が残り、硬性の補装具が必要でないケース
  • 上腕骨、橈骨または尺骨の骨端部のうち、ほとんどが欠損したケース
  • 上腕骨(骨端部を除く)の直径が3分の2以下になったか、橈骨または尺骨(骨端部を除く)の直径が2分の1以下になったケース
  • 上腕骨が50度以上外旋するか、または内旋して変形癒合したケース
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6.手指欠損障害

次に、手指の後遺障害を確認しましょう。手指の後遺障害には、手指が欠損する手指欠損障害があります。これは、物理的に手の指がなくなる場合に認められる後遺障害です。

以下の表の通りとなります。

後遺障害等級 後遺障害の内容
第3級5号 両手の手指の全部を失ったもの
第6級8号 1手の5の手指又はおや指を含み4の手指を失ったもの
第7級6号 1手のおや指を含み3の手指を失ったもの又はおや指以外の4の手指を失ったもの
第8級3号 1手のおや指を含み2の手指を失ったもの又はおや指以外の3の手指を失ったもの
第9級12号 1手のおや指又はおや指以外の2の手指を失ったもの
第11級8号 1手のひとさし指、なか指又はくすり指を失ったもの
第12級9号 1手のこ指を失ったもの
第13級7号 1手のおや指の指骨の一部を失ったもの
第12級6号 1手のおや指以外の手指の指骨の一部を失ったもの

手指を失ったものという場合、おや指なら指節間関節、おや指以外の手指の場合には近位指節間関節以上を失ったケースです。

指骨の一部を失ったものという場合、1つの指骨の一部を失ったことレントゲン検査などで確認できるケースをいいます。

7.手指機能障害

手指の後遺障害には、手指の機能障害があります。これは、手指自体は物理的に残っていても、その機能が失われたり低下したりした場合に認められる後遺障害です。

手指の機能障害が認められるケースは、以下の表の通りです。

後遺障害等級 後遺障害の内容
第4級6号 両手の手指の全部の用を廃したもの
第7級7号 1手の5の手指またはおや指を含み4の手指の用を廃したもの
第8級4号 1手のおや指を含み3の手指の用を廃したもの又はおや指以外の4の手指の用を廃したもの
第9級13号 1手のおや指を含み2の手指の用を廃したもの又はおや指以外の3の手指の用を廃したもの
第10級7号 1手のおや指又はおや指以外の2の手指の用を廃したもの
第12級10号 1手のひとさし指、なか指又はくすり指の用を廃したもの
第13級6号 1手のこ指の用を廃したもの
第14級7号 1手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの

手指の用を廃したものという場合は、手指の末節骨が半分以上なくなったケースか、中手指節関節・近位指節間関節(おや指の場合には指節間関節)に著しい運動障害が残った場合です。近位指節間関節とは、指の付け値に近い方の第2関節のことです。

具体的には、手指の末節骨の長さが2分の1以上失われたケース、第2関節(おや指の場合には指節間関節)の可動域が健常な側の手指の可動域の2分の1以下になったケースで認められます。

おや指の場合には、回転が健常な側の指の2分の1以下になってしまった場合にも著しい運動障害が残るものとして認められます。手指の末節の指腹部と側部の感覚が無くなった場合にも、手指の用を廃したものとなります。

遠位指節間関節を屈伸することができないものという場合は、次のいずれかに該当するケースです。遠位指節間関節とは、指先に近い第1関節のことです。

  • 遠位指節間関節が強直したケース
  • 遠位指節間関節が、自動で屈伸ができなくなるか、それに近い状態になったケース

8.手や指の後遺障害で認められる賠償金

手や指に後遺障害が残った場合、どのような賠償金を請求することができるのでしょうか?

後遺障害が残った場合、後遺障害の等級によって異なる後遺障害慰謝料と逸失利益が認められます。後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ったことによって認められる精神的苦痛に対する慰謝料です。

逸失利益とは、後遺障害が残ったことにより、労働能力が喪失されるため、本来得られるはずだったのに失われてしまった収入のことです。

(1)後遺障害慰謝料について

各等級における後遺障害慰謝料の金額は、以下の表の通りです。

後遺障害等級 弁護士・裁判基準
第1級 2800万円
第2級 2370万円
第3級 1990万円
第4級 1670万円
第5級 1400万円
第6級 1180万円
第7級 1000万円
第8級 830万円
第9級 690万円
第10級 550万円
第11級 420万円
第12級 290万円
第13級 180万円
第14級 110万円

上肢が失われたケースなどでは、1級、2級などの重度な後遺障害が認定されるため、後遺障害慰謝料の金額は高額になります。

ただし、上記の金額は、慰謝料が高額になる弁護士・裁判基準を使って計算をしているため、被害者が自分で任意保険会社と示談交渉をするときには、上記の表より低い金額に下がってしまいます。

弁護士・裁判基準の通りに後遺障害慰謝料を請求したい場合には、弁護士に示談交渉を依頼する必要があります。

(2)逸失利益について

次に、逸失利益についてご説明します。逸失利益は、労働能力喪失率によって計算されるので、労働能力喪失率が高くなると、逸失利益も高額になります。

各後遺障害の等級における労働能力喪失率は、以下のとおりです。

障害等級 労働能力喪失率
第1級 100%
第2級 100%
第3級 100%
第4級 92%
第5級 79%
第6級 67%
第7級 56%
第8級 45%
第9級 35%
第10級 27%
第11級 20%
第12級 14%
第13級 9%
第14級 5%

1級から3級までの場合には100%の労働能力喪失率が認められますし、4級でも92%と非常に高い数字です。

上肢に後遺障害が残るときには、1級~4級までの高い等級認定を受けられることもあるので、こうした場合には非常に高額な逸失利益が認められる可能性があります。

事故当時に年齢が若かったり、年収が高かったりした人が、上肢に重い後遺障害を負った場合などには、1億円を超える高額な逸失利益が発生する可能性もあります。

9.腕や指に後遺障害が残ったら弁護士に相談しよう

以上のように、腕や手指に後遺障害が残るパターンはさまざまですが、腕や手は人間の動作の基本となるので、この部分に後遺障害が残ると、極めて不便になります。

そうした場合、もとの身体に戻ることができない以上は、相手に正当な賠償金を支払ってもらうほかありません。

ところが、被害者が自分で後遺障害の等級認定申請をしても、適切に後遺障害の認定が受けられない可能性がありますし、被害者が自分で示談交渉をすると、どうしても示談金の金額が低くなってしまいます。

その場合、相手の保険会社が、低額な任意保険基準や自賠責基準で賠償金を計算するからです。そこで、適切に後遺障害の等級認定を受けて、なるべく高額な後遺障害慰謝料や逸失利益の支払いを受けるためには、弁護士に対応を依頼する必要があります。

まとめ

交通事故は弁護士に示談対応を依頼することで、被害者は加害者との交渉・手続きにかける手間がなくなり、精神的にも楽になります。適切な等級取得と交渉によって得られる賠償金も大きくなるでしょう。

交通事故の後遺障害で手や指が不自由になっている方は、まずは交通事故問題に強い弁護士に相談することをおすすめします。

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