交通事故に遭った被害者の方は、加害者側と示談交渉に臨むことになりますが、必ずしも交渉が実を結ぶとは限りません。示談が不成立になった場合には、ほかの解決手段を利用することになります。このようなケースでは、裁判所で解決する方法(訴訟、調停)と、裁判所以外で解決する方法があります。裁判所以外での解決は、一般にADR(裁判外紛争解決手続)と呼ばれています。
ADRの機関は多く存在しますが、その中でも代表的なのが、日弁連交通事故相談センターです。裁判所以外での解決方法を探している被害者の方のために、同センターについて説明したいと思います。
日弁連交通事故相談センターとは?
日弁連交通事故相談センターは、日本弁護士連合会(日弁連)が設立した公益財団法人です。昭和42年に運輸省(現・国土交通省)の認可を得て財団法人としてスタートし、平成24年に内閣府から公益財団法人の認定を受け現在に至っています。
センターの拠出金は、国土交通省からの補助金、日弁連、弁護士会をはじめ、弁護士とその関係団体や一般の方からの寄付金などでまかなわれています。センターの設立目的は、公共の福祉のために自動車事故に関する損害賠償問題の適切・迅速な処理を促すことです。
弁護士が自らセンターの運営を担当するとともに、弁護士による無料の相談所を本部含めて全国159か所に設置するなど、精力的な活動を展開しています。
それでは次に、どのような業務を行っているのか見てみましょう。
業務内容
電話相談(無料)
10分程度の電話による相談が可能です。ただ、過失割合の判断など、電話での回答が困難な内容については、面談での相談の方が望ましいです。
面談相談(無料)
面談の形式が相談の基本方法となります。面談ならば、余裕を持って、エキスパートへの相談をすることが可能となるからです。また、専門的な相談をしてもらうためにも、最寄りの相談所の相談日時を確認してから、次にあげる書類をできるだけ多く持参するようにしましょう。
- 交通事故証明書、事故状況を示す図面、現場・物損等の写真
- 診断書、後遺障害診断書
- 治療費明細書
- 事故前の収入を証明するもの(給料明細書、休業損害証明書、源泉徴収票・確定申告書の写しなど)
- 相手方からの提出書類など
- 加害者の任意保険の有無と種類
- その他(差額ベッド代、付添日数・費用、修理費、家屋改修費、有給休暇日数、相手方加入保険内容のメモなど)
示談成立の支援
無料の相談を受けた後、担当弁護士の判断により、示談成立の支援がスタートします。
損害賠償の示談交渉が不成立となった、つまり被害者と加害者の損害賠償の話し合いがまとまらない場合、センターの弁護士が間に入って、示談が成立するようにサポートします(示談あっ旋)。民間版の調停とも言えるこの制度をうまく利用すれば、適正な賠償額で早めに解決する可能性が高いです。
それでは、どのような場合に示談あっ旋をしてもらえるのでしょうか。
示談あっ旋について
示談あっ旋が可能なケース
きわめて当然な条件ですが、示談あっ旋が可能な事案は、自賠責保険(または自賠責共済)に加入することを義務付けられている車両による自動車事故事案に限られています。つまり、一般の人が使う自動車はすべて含まれるということです。
人損・人損をともなう物損ではすべてのケースで可能となります。この場合は、自賠責保険(または自賠責共済)だけか、あるいは無保険でも対応できます。
物損のみの場合は、一般社団法人日本損害保険協会加盟保険会社による、物損の示談代行付き保険に加入している事案に限られています。
示談あっ旋が不成立になった場合
センターによる示談あっ旋が不成立になったとしても、すぐに訴訟に踏み切るのは避けたいものです。なぜならば、以下に記した9つの共済に加害者が加入している場合には、さらなる救済策を利用することが可能なためです。
【審査の申し出が可能となる9共済】
- 全労済(全国労働者共済生活協同組合連合会)「マイカー共済」
- 教職員共済生協(教職員共済生活協同組合)「自動車共済」
- JA(農業協同組合)「自動車共済」
- 自治協会(全国自治協会)・町村生協(全国町村職員生活協同組合)「自動車共済」
- 都市生協(生活協同組合全国都市職員災害共済会)「自動車共済」
- 市有物件共済会(全国市有物件災害共済会)「自動車共済」
- 自治労共済生協(全日本自治体労働者共済生活協同組合)「自動車共済」
- 交協連(全国トラック交通共済協同組合連合会)「自動車共済」
- 全自共(全国自動車共済協同組合連合会)「自動車共済」・全自共と共済連(全国中小企業共済協同組合連合会)「自動車共済(共同元受)」
上記の共済の示談あっ旋が不成立となった際には、以下の二つの事案について審査が行われることになります。
- 上記の共済が被共済者(=加害者)の代行をしているもので、被害者から審査の申し出があった場合
- 被共済者(=加害者)から審査の申出があったものについて、被害者がその申出に同意した場合
示談が不成立になった場合には、加害者が加入している共済を確認したうえで、審査の申し出を利用して、さらなる紛争解決をセンターに依頼しましょう。
さて、肝心の「審査」について説明してみたいと思います。
専門家で構成される審査委員会が審査を行います。被害者側が審査結果に同意した場合は、その審査結果に沿った示談成立書が作成されることになります。なお、審査結果については被害者の同意は自由であり、仮に被害者側が同意した時には、加害者加入の共済は審査意見を尊重することになっています。
ただ、被害者側が審査結果に同意しなかった場合は、残された紛争解決の手段は、調停か訴訟のみとなることに注意しましょう。
交通事故の発生
↓
被害者(加害者等)がセンターに面談相談
↓
センターに示談あっ旋申し込み
↓
示談あっ旋(平成28年度成立率63.99%)
↓
示談成立(示談書作成)
→【示談不成立の場合】
↓
センターでの審査または訴訟等
安心できる理由
さて最後にセンターを利用する方にとって安心できる点を以下にあげてみたいと思います。
- 設立以来50年以上の間に蓄積されている知識とノウハウが全国の担当弁護士に共有されている
- 拠出金は政府からの補助金や法曹界や一般からの寄付金でまかなっているため、利益追求の必要がない
- 全国の担当弁護士は被害者に親身になって相談に当たる
- 高度な医学的知識がからむ交通事故賠償問題に対応できるよう、最新の交通事故賠償問題を研修会などで学び、常に自己研さんしている
- 複数回の相談でも費用は一切かからない
- 北海道から沖縄まで全国に相談所がある
まとめ
日弁連交通事故相談センターについて解説してきました。交通事故の被害者請求は高度な知識と示談交渉・後遺障害等級認定に豊富な経験を持つ弁護士に相談することで適切な解決が可能になります。
より良い解決をするためには交通事故に強い弁護士への相談も視野に入れてみましょう。